法律の世界における言葉の使い方は、日常的な文章の表現とは大きく異なる場合が多々あります。今回は、特に経営管理部門で人事労務管理の仕事をしている人なら直面したことがあるかもしれない、法律用語における「以上」と「超える」の使われ方をご紹介します。
■日常用語の「以上」と「超える」の場合は?
日常の場面では、「以上」と「超える」は、あまり区別はされていません。
先月まで行われていたオリンピックでも、参加選手が「これまで以上の結果を出す!」とか「これまでの記録を超える」などと発言していましたが、「超える」と「以上」の違いはあまり意識されていないようです。
■法律用語の「以上」と「超える」の場合は?
法律用語では、「以上」と「超える」は明確に区分けされます。
「以上」は基準となる数量に対してそれより多いことを意味し、「超える」は基準となる数量は含まずにそれより多いことを意味します。「以下」と「未満」も同様に明確に区分けされています。
・1万円を超える→1万円を含まず1万円より多い金額
・1万円以上→1万円を含んで1万円より多い金額
・1万円以下→1万円を含んで1万円より少ない金額
・1万円未満→1万円を含まず1万円より少ない金額
なお、1万円未満を9,999円以下と覚えるのは間違いです。実際の法律の適用場面では、計算上端数が出る場合があり、9999.5円は9,999円以下ではありませんが1万円未満となります。
■「以上」と「超える」、実際の法律に適用されるケースでは大きな違いの要因に
基準となる数量を含むか含まないかだけでは、大きな違いはないようにも思えます。しかし、法律の条文になって実際に適用される場面では、大きな違いが出る場合があります。
例えば労働契約法の18条1項では契約期間に関して、契約社員やパート、アルバイトが働き続けやすい環境を作るために無期転換ルールという仕組みが定められています。具体的には「有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるルール」となり、これを図示すると以下のようになります。
1年契約で更新を繰り返している場合、5年を超えていないと無期労働契約の転換の申込み(以下、申込み)ができないので、申込みは6年目からになり、実際に無期労働契約に転換するのは7年目からになります。もし、このルールが、「5年を超える」ではなく「5年以上」となっていれば、申し込みは5年目からになり、無期雇用に転換するのは6年目からとなります。
このように、「以上」と「超える」のように似たような言葉でも、法律のなかで使用されると日常用語とは意味が違っていたり、条文やルールの適用場面によって大きな違いが出る場合があるのです。
ちなみに、お付き合いしている相手が法律家の場合、「あなたは友達以上、恋人未満。」と言われてしまった場合は、友達を含んでいる(=友達と思われている)かもしれません(笑)。要注意です!
*著者:フリーライター 近江直樹 (社会保険労務士、行政書士、宅建士、FP技能士など多くの資格を持つ「資格取得の達人」。執筆の他に、企画・編集・インタビューなど、幅広い出版活動を行っている。公式ホームページはこちら、公式ブログはこちら。電子書籍「資格試験のテクニック48」「資格試験を突破するメンタル術」(Links社)が好評発売中。)
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