「裁判所は変わる必要がある」 …元死刑囚が死去した「名張毒ぶどう酒事件」について想うこと

1961年3月、名張市の公民館で起きた毒物混入事件で、5人が亡くなりました。

被害者のうち、奥西さんの妻と愛人が含まれていたことから、三角関係を一気に解消しようとしたことが犯行の動機とされ、逮捕、起訴され、一審では無罪、二審では逆転死刑、最高裁もこれを支持しました。

再審請求中は、法務省が死刑執行を避ける傾向があるため、無罪を信じる弁護団が9度に亘って再審請求を繰り返し、その過程で元死刑囚の奥西さんが亡くなりました。

牢獄

●争点は自白の信用性と犯行の方法

奥西さんは、操作段階で自白をしたものの、その後否認に及んでいます。犯行に使われたとされるニッカリンTが赤い液体だと判明したにもかかわらず、奥西さんの自白の内容は白ワインに混入したとされており、自白の内容に矛盾があるという主張が弁護団からされました。

また、ぶどう酒の王冠に奥西さんの歯型があったというものの、犯行に使われた毒入りぶどう酒の王冠か特定できていないし、そもそも王冠を傷つけずに開栓する方法があることから、必ずしも歯型のある王冠が犯行に使われたぶどう酒の王冠とは限らないことなどが弁護団から主張されました。

いずれも棄却される訳ですが、弁護団がここまで繰り返し再審請求をするくらいですから、それなりの確証があるのでしょう。また、この時代の自白の取り方の問題点は、よく指摘されるところでもあります。

 

●裁判所は観点を変える必要がある

私も修習生の頃に、指導担当の弁護士が袴田事件の再審請求に関わっていたので、その会合に何度か立ち会わせて頂いたことがありますが、そこでも同じように自白の信用性と犯行の方法について争われていました。

弁護団が物理的に、科学的にあり得ないという主張をするのですが、裁判所はいずれも強引とも思える検察側の主張を受け入れ、棄却の連続でした。

これらの事件が今行われたとしたら、もっと緻密な捜査が行われ、判断も更に慎重になったであろうと思われますが、足利事件のように再審無罪と言えるような事件が、この時代のには少なからずあるのだろうと思います。

その意味では、裁判所も少し観点を変えて、この事件についても考えて頂きたいものと思います。

 

*著者:弁護士 小野智彦(銀座ウィザード法律事務所。浜松市出身。エンターテイメント法、離婚、相続、交通事故、少年事件を得意とする。)

小野智彦
小野 智彦 おのともひこ

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