電機メーカー「シャープ」が発注した機械設備を8億円で受注した機械製造会社「片岡製作所」が、「代金を受け取っていない」と主張し、訴訟を大阪地裁に起こしました。
機械設備を納入した後も代金が支払われず数年が経ち、今回の訴訟に踏み切った様です。
報道によると、8億円という額でありながら古くからの慣例に習い、口約束のみで契約がなされただけだったということにも注目されています。
口約束であっても契約は成立するのでしょうか?もし「そんなこと言っていない」と片方が言った場合、どうなるのでしょうか?解説していきます。
■口約束でも契約は成立
結論からいうと、契約のほとんど全ては契約書や発注書などの書面がなくても、合意さえあれば、たとえ口約束でも契約成立となります。
これは、民法が意思表示の合致(合意)だけで契約が成立する諾成契約を原則としているからです。
例外的に、貸金契約などの消費貸借契約では、契約目的物(貸付金)の交付が契約成立に必要となったり、保証契約では書面が必要ですが、基本的に契約は口頭でも成立します。
■裁判上の立証は別
では、どうして契約書や発注書を作成するかといえば、口頭の合意だけでは、どのような契約内容であるのか、客観的に明らかにできないためです。
口頭合意だけだと、双方の認識に相違があった場合、契約内容につき結局、言った言わない、の論争となり、決着がつきません。
その場合でも、裁判では、立証責任の配分ルールに従って、法律効果(契約による権利義務)の発生を主張する側が立証できなければ負けという形で判決の結論自体は下されますが、紛争が発生して裁判となること自体、双方にとって、余計な費用・手間の負担が生じ、メリットがありません。
そのような不毛な争いを避け、双方納得の上、契約を締結し、契約内容を明白にするためには、契約書などの書面が必須です。
あとで契約内容の立証さえできれば、契約自体は口頭の合意だけでも成立しますから、契約書までは作成しなくても、発注書・受注請書などを作成して契約内容を明白にする方法もあります。
■8億の口頭契約もあり
上記で説明したとおり、たとえ8億円という高額でも、合意が立証できれば、裁判で受注契約の成立が認められることはあり得ます。
今回の裁判では、過去に長年口頭合意で取引してきたことなども踏まえて結論が下されるものと予想されます。
*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。顧問法務、不動産、太陽光自然エネルギー、中 国法務、農業、不貞による慰謝料、外国人の離婚事件等が専門。)