殺人事件などが起こった際にニュースなどで、「○○警察は、殺人罪の疑いで○○容疑者を緊急逮捕しました」などと聞くことがあると思います。逮捕状による通常逮捕ではなく、現行犯人逮捕でもない、緊急逮捕とは何なのでしょうか。
刑事訴訟法210条1項に規定される緊急逮捕という制度について解説します。
■逮捕の種類は3つある
刑事訴訟法には、3種類の逮捕手続が規定されています。それぞれ、刑事手続は異なりますが、次のように定められています。
まず、基本となるのが裁判官の令状による通常逮捕です。捜査機関が犯人を特定できる証拠かを集め、逮捕状を裁判所に発行を請求し発布されれば、逮捕できるようになります。このように、逮捕は令状によるのが原則となります(令状主義、憲法33条)。
また、憲法33条に定められる令状主義の例外としての現行犯人逮捕があります。現行犯人逮捕は、犯行及び犯人が明白であり、令状発布を待つ時間的余裕がない場合に行われる逮捕です。
現行犯人逮捕に関しては、逮捕状が必要という学説が多数ありますが、不要としている裁判例もあり別れているところです。
そして、緊急逮捕は、いわばこれらの中間に位置する逮捕であり、現行犯人逮捕のように犯行及び犯人の明白性までは要件とされません。
緊急逮捕の場合、逮捕時には逮捕状を呈示しませんが、逮捕後直ちに裁判官の逮捕状を取得する必要があります。最高裁判所は、緊急逮捕についても憲法33条の令状主義との関係で合憲と判断しています。
■どんなときに緊急逮捕を行うことができるか
緊急逮捕を行うことができるのは、検察官、検察事務官又は司法警察職員(警察官)です。
また、緊急逮捕の要件は、(1)死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁固にあたる罪を、(2)犯したことを疑うに足りる十分な理由があること、(3)急速を要し、裁判官の令状を求めることができないことです。
すなわち、一定の重大犯罪の嫌疑可能性が十分にあり、かつ、緊急に身柄を拘束する必要性がある場合にとられる手続ということになります。このような要件をみたすからこそ、憲法33条の令状主義の例外として認められているのです。
さらに、逮捕時には被疑者に理由(犯罪の要旨や、逮捕状発付を待つ時間的余裕がないこと)を告げることが必要となり、逮捕後は直ちに裁判官の逮捕状を求める手続を採らなければなりません。
裁判官が事後審査により逮捕状を発付することも緊急逮捕の合憲性を担保する要素の一つと考えれば、この手続の重要性も理解しやすくなると思います。
■3種類の逮捕
逮捕は、被疑者の身体拘束を伴い、権利の制約が大きいものであるため、手続については法律により厳格に定められています。
以上のように、逮捕には、場面に応じて3種類あること、緊急逮捕はその中でも特殊な位置づけにあることを念頭に置くと、普段ニュースを見たり新聞を読んだりする際にも、逮捕の状況についてイメージが湧きやすくなると思います。
*著者:弁護士 鈴木翔太(弁護士法人 鈴木総合法律事務所)