サッポロビール(以下、サッポロ)が販売していた「極ZERO」というアルコール飲料について、国税当局が「第3のビールに当たらない可能性がある」として、サッポロに対して製造方法に関するデータの照会を行ったということです。
その後、発泡性酒類の基本税率との差額115億円をサッポロが支払いましたが、サッポロは「やはり第3のビールだ」という見解を示し、国税局に支払った115億円を返還して欲しいと申請しましたが、国税局はそれに応えませんでした。
■そもそもの原因
そもそも、今回問題が起きた原因は、ビール系飲料についての税率が統一されておらず、微妙な製法の違いによって、異なる税率が適用されていることにあります。
詳細は、「「第3のビール」か「発泡酒」かは誰がどうやって判断している?」の記事に譲りますが、ビール、発泡酒、第3のビールのいずれに分類されるかによって、税額が異なります。
サッポロは税率の低い第3のビールとして発売しましたが、国税当局から製造方法の問い合わせを受けたことを機に、自主的に追加の税金を納税していました。
今回、サッポロは、やはり第3のビールに該当するので、追加納税には納得できないとして、国税当局に異議申し立てを行いました。
■国税不服審判所とは何か?
一般に、課税処分を含む行政処分に対しては、不服申立が可能です。
不服申し立ては、基本的には処分をした行政庁への異議申し立てかその上級庁に対して審査請求を行いますが、課税処分に関する不服申し立て(審査請求)は、国税不服審判所という専門機関に対して行います。
これは、課税処分に対する不服申し立ては、租税法に関する専門的・技術的な解釈が問題となるため、専門機関を不服申し立ての審査機関とすることで、的確な判断を可能とするためです。
ただし、裁判所のような高度の独立性がある機関ではなく、いわば国税当局の身内の行政機関であるため、どうしても事実上国税当居に有利な視点から判断がされやすいことは否定できません。
■最終的な決着は裁判になる
今回、サッポロ側の異議申し立ては、棄却されました。
サッポロ側としては、税務当局の判断に納得しないと思われますが、今後は、国税不服審判所への不服申し立ても含めて対応を検討しているようです。
もしそれでも進展がない場合、最終的に課税処分の妥当性は、裁判所において、判決により決定されることになります。
現在、ビール系飲料の税率区分を統一しようとの議論が進んでおり、統一が実現すれば、今回のような紛争はなくなるものと予想されます。
ただし、税率を高い飲料側に統一するのか、低い側に統一するのか、酒造業者の間でも思惑の違いがあり、法改正までにはまだまだ障壁がありそうです。
*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。顧問法務、不動産、太陽光自然エネルギー、中 国法務、農業、不貞による慰謝料、外国人の離婚事件等が専門。)