子どものことは全部把握しておかないと気が済まない、という親がいるようです。たとえば、母親に部屋の中を勝手に捜索された、という経験を持っている人は少なからずいるのではないでしょうか。
そのようなことがあった場合、探された子どもからすれば、「プライバシー侵害だ」と思うでしょうが、実際にプライバシー侵害が成立するのでしょうか。
■プライバシーとして保護されるには
プライバシーというのは多義的な概念ですが、かつては「一人で放っておいてもらう権利」などといわれることもありました。しかし、現在は一般的には、「宴のあと」事件判決(東京地裁昭和39年9月28日)の基準に従うことが多いです。
その要件は以下のとおりです。
(1)私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれがあることがらであること
(2)一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合公開を欲しないであろうと認められることがらであること
(3)一般の人々に未だ知られていないことがらであること
この基準に従うと、勝手に自分の部屋を捜索されたという状況は、(1)私生活上のことを、(2)自分以外の人に勝手に見られた(=公開された)状況で、(3)部屋の中のことですから一般に知られていないもの、ということができます。
そのため、通常、それが公開されたくないといえるものであれば、プライバシー侵害が成立し得るということになります。
なお、子どもが未成年であっても、また、家族間・家庭内のことであっても、個々人に人格が認められる以上、みだりにこれを侵害することは許されません。
■プライバシー侵害の効果は?
親に部屋の中を勝手に捜索されたという場合に、親を訴えるというケースはほとんどないのではないとは思います。しかし、法的には、プライバシー侵害があると、損害賠償を請求することが可能です。
プライバシーが侵害される前の状態に戻すことはできない以上、お金で解決する以外にありません。
とはいっても、家族間でのことである以上、プライバシー性が低いことも少なくないと思われ、認められる額は低額になるだろうと思います。
こじれてしまえば親子間であっても裁判をする、という例は今後出てきてしまうかもしれません。親子といっても相手を尊重して、プライバシーに配慮するべきでしょう。
*著者:弁護士 清水陽平(法律事務所アルシエン。インターネット上でされる誹謗中傷への対策、炎上対策のほか、名誉・プライバシー関連訴訟などに対応。)