弁護士が語る「司法試験漏えい問題」が引き起こした2つの最悪の事態

■法科大学院指導の実際

法科大学院は、理論と実務の橋渡しと多様な人材育成を目的に設立されたこともあり、実務家教員が多数教鞭をとっている他、特に法理論の習得も目指すために、一定数研究者教員の授業も設けられています。

司法試験も理論と実務の融合、法科大学院教育との連携の観点から、試験問題作成・採点を実際に担当する司法試験考査委員には、裁判官、検察官、弁護士の他、法科大学院教員も任命されています。

そうすると、自ずと、試験問題を作成したり、その年の司法試験問題を知っている教員が授業を受け持つことも可能となり、漏えいの危険が出てきます。

2007年にも、慶応大で考査委員が勉強会で試験問題に似た問題を出題し、問題となりました。それからは、考査委員は、受験学年の指導を禁止されていたはずですが、徹底されなかったのでしょうか。

司法試験に限らず、試験問題は、普通は学習する範囲から応用して出題されるため、その年の試験問題と関連するテーマだけを避けて授業で扱わないということはできません。

とすれば、漏えいとまではいかなくても、公平と保つには、考査委員は受験学年の担当は持たず、懇親会やゼミも含めて接触禁止を徹底するしか方法はないと思います。

当職が法科大学院に在籍していた頃、率直にいって一番わかりやすく、かつ、役に立ったと感じた授業は、裁判官、検察官、弁護士などの実務家教員担当のものでしたが、研究者教員の中でも、司法試験考査委員の経験がある教授の授業は、学生側からの評判が高かったです。

学生からすれば、司法試験に受かることが目標ですから、ある程度司法試験を意識した授業がどうしても望まれるためです。

そういう意味では、法科大学院で教えて研究者教員を考査委員から完全に排除するのは妥当ではなく、受験生学年への指導・接触は禁止するのが無難ではないかと思います。

 

■弁護士の実感

今回、女子学生の関与がどの程度かは現時点で不明ですが、主に教授側で漏えいを主導したとすれば、(1)本来合格すべきだった他の受験生が1人不当に不合格になる、(2)漏えいがなかったとしても合格していたかもしれない受験生が失格になる、という2つの最悪の事態をもたらします。

試験問題の漏えいは、漏えいを受けた受験生側も、他の受験生にとっても、誰も得しない事態しか招きません。

仮に、今後研究者教員の考査委員就任まで禁止される事態となれば、法科大学院と司法試験が大きく乖離するという悪影響も想定されます。

受験生を合格させたい熱意に溢れた指導者が多いのは事実で、合格させたい気持ちが強すぎ、間違った方向に進んでしまったのかもしれません。

再発防止策をとり、今後、同じことがないよう、願っています。

*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。顧問法務、不動産、太陽光自然エネルギー、中 国法務、農業、不貞による慰謝料、外国人の離婚事件等が専門。)

星野宏明
星野 宏明 ほしのひろあき

星野・長塚・木川法律事務所

東京都港区西新橋1‐21‐8 弁護士ビル303

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