■プライバシー侵害が成立するには
本件では、プライバシー侵害を理由に、請求者に関する情報の削除と損害賠償の請求がされているようです。
プライバシー権などの人格権が侵害されている場合、その侵害にあたる情報の削除や損害賠償を請求することができます。本件での問題は、ハローページに掲載されていた情報であるため、これがプライバシーの対象といえるかどうかという点です。
判例上、プライバシー侵害に当たるためには、以下の要件を満たす必要があります。
(1)私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれがあること、
(2)一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立つた場合公開を欲しないであろうと認められること
(3)一般の人々に未だ知られていないことがらであること
この要件を満たすかを検討してみましょう。
■公開を欲しない事柄と考えられてきている
まず、氏名、住所、電話番号などはその人に紐づくものであり、私生活上の事実であるという点はそれほど異論がないのではないかと思います(1)。
次に、公開を欲しないかどうかという点ですが(2)、この点は普通の人がどのように考えられるのかということを考える必要があります。
この点について、早稲田大学名簿提出事件(最判平成15年9月12日)が参考になります。同判決では、「学籍番号、氏名、住所および電話番号は、早稲田大学が個人識別等を行うための単純な情報」に関して、「本人が、自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことであり、そのことへの期待は保護されるべき」として、個人識別のための単純な情報についてもプライバシー権侵害を認めています。
そのため、氏名、住所、電話番号などの単純な情報であっても、通常は公開を欲しないといえると思われます。
■一般の人々に未だ知られていないか?
ハローページに掲載されていた情報である以上、 一般の人々に未だ知られていない(3)とは言えないのではないか、という問題が残ります。
しかし、この点に関しても、東京地判平成23年 8月29日は、判決を住所等をマスキングせずそのままネットに公開した事例で、自宅住所等の情報が電話帳などに掲載されていたという反論がされたものの、プライバシー侵害が認めています。
また、東京地判平成19年6月4日も、登記されている代表取締役の住所をネットに公開した事案において、登記されて公開されている事項であり、パソコンを使用して集められる程度のものだという反論がされたものの、プライバシー侵害を認めています。
したがって、この点も満たすと考えられ、結果的にプライバシー侵害といえる可能性が高いのではないかという気がします。
過去の判例等を考えると削除が認められる可能性はそれなりにあると思いますが、サイト管理者はTwitterで、「管理人は法廷でことごとく完全論破する所存」と主張しているようです。
「ネットの電話帳が適法である理由」として掲載されている個人情報保護法や著作権などの問題は、本件とは無関係で争点になり得ないと思われるため、どのような反論が出てくるのか注目しています。
*著者:弁護士 清水陽平(法律事務所アルシエン。インターネット上でされる誹謗中傷への対策、炎上対策のほか、名誉・プライバシー関連訴訟などに対応。)
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