●不備があっても直ぐに無効になるわけではない
まず、そもそもこの記載がないから契約書が直ちにすべて無効になる、ということは基本的にはありません。
たとえば、契約書の日付の欄が空欄であったとしても、ほかの手段で契約締結日が立証できれば問題ありませんし、立証できなかったとしても日付が特に問題とならないような場合には契約書の有効性には影響しません。
また、契約書の記載内容の一部が無効であったとしても、それだけで契約書全体が無効になるというわけでもありません。
たとえば、土地3つを購入する契約をしたものの、3つのうち1つが記載ミス等で実在しない土地であり、その部分の売買契約が無効であったとしても、残りの2つの土地の売買の記載については有効になる余地があります。
●印鑑の有無も効力には影響しない
日本では契約書には印鑑を押すことが通常ですが、仮に印鑑がなく署名のみでも契約書が無効になることはありません。印鑑を押す場合でも、実印、銀行印、三文判のどれを押しても効力はほぼ同じです。
なお、場合によっては契約書に実印を押してさらに印鑑証明を添付する場合などがありますが、これは重要な契約なので「念のため」という理由で実印が使われるだけです。法律上実印を押さなければならない義務があるわけではありません。
なお、契約書を作成する際には、契約書に収入印紙を貼らなければならない場合がありますが、収入印紙が貼られていない場合でも税法上の問題はともかく、契約内容については有効とされています。
●無効になってしまうケースは?
このように、契約書がすべて無効になるというケースは実はそれほど多くないのですが、ただ、契約書の重要部分の記載があいまいであったり、空欄であったりした場合には契約書すべてが無効になる可能性があります。
例えば、お金を借りる際の契約書に、「借りたお金はいつか返す」という記載しかない場合には、貸す金額も返済期限も事実上書いていないに等しいと思われます。このような契約書しかない場合には、当事者間で合意が成立していないと判断され、契約書が無効とされる場合があります。
契約書は後のトラブルを防ぐきわめて重要な証拠であり、裁判になった場合でも契約書の記載内容で勝敗が左右されることもまれではありません。
ですので、契約書を作成する場合、あるいは署名する場合にはくれぐれも慎重に文言を確認した上で作成、署名されることを心掛けた方がよろしいでしょう。
*著者:弁護士 山口政貴(神楽坂中央法律事務所。サラリーマン経験後、弁護士に。借金問題や消費者被害等、社会的弱者や消費者側の事件のエキスパート。)
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