酒鬼薔薇事件で注目「サムの息子法」は日本にも導入できるのか

酒鬼薔薇事件の加害者、通称「少年A」が現在の心境や、当時の精神状態などついてつづった手記が発売され、波紋を広げています。

とくに注目されているのは、数千万円にもなる可能性があるといわれている印税の行方です。一部では慰謝料に充てるのはないかともいわれていますが、犯罪者が自らの罪を商業的に利用すること自体が問題視されている側面もあります。

そして、この問題で注目されている法律があります。それは「サムの息子法」と呼ばれるニューヨーク州の法律です。この法律はなぜこのタイミングで注目されているのでしょうか。そして、この法律は日本に導入することは可能なのでしょうか?

ペン執筆作文

■「サムの息子法」の内容

ニューヨーク州の「サムの息子法」と呼ばれる法律は、犯罪者が手記を書くなどして当該犯罪行為を基に収入を得た場合、遺族など被害者側の申立てにより、手記出版による収益を取り上げることができるというものです。

1976年に、大手出版社がニューヨークで起きた連続殺人事件の犯人に手記を書かせて売ろうとしたことがきっかけで制定されたものです。

その後、1984年に連邦レベルでも犯罪被害者法が制定され、出版による収益だけでなく、没収された保釈金や犯人の差押財産も基金として遺族や被害者のために分配される仕組みができました。

 

■日本にもサムの息子法を導入できる

今回、酒鬼薔薇事件の犯人による手記出版に対し、遺族被害者が、差し止めを求めていますが、日本でも導入することは憲法上可能だと考えます。

導入する際に最大の問題となるのが、憲法が保障する表現の自由との関係です。

憲法が保障する表現の自由により、たとえ犯罪者による事件に関する出版であっても、原則として国家(政府・裁判所)は制限できません。

もっとも、他人のプライバシー侵害や名誉棄損を伴うものは例外的に差し止めできる場合がありますし、いかなるときも表現行為を絶対的に抑制できないわけではありません。

犯罪加害者による出版であることだけを理由として、事件関係の出版を一律に禁止する法律は、規制範囲が広範になりすぎるため、憲法違反のおそれがありますが、アメリカのサムの息子法と同様、出版行為を認めた上で、印税など犯人が出版により得る収益を没収するという内容であれば、表現の自由の問題をクリアする余地はあると思います。

厳密にいうと、憲法上は、犯人の収益没収による財産権侵害についても問題となります。

これまで憲法学でも深く議論されていない問題ですが、出版行為自体は認めた上で、収益没収も全額ではなく、例えば70%~90%没収とするなどすれば、違憲を回避することは十分可能だと思います。

サムの息子法は、アメリカでも無制限の出版制限は表現の自由を定めた合衆国憲法に違反するとして、制限内容を限定するよう判例で指摘されました。

日本で導入する場合も、正面から憲法の表現の自由や財産権侵害が問題となりますが、犯罪被害者保護の重要性が認知されつつある昨今、今後議論を深めていく価値がある論点だと思います。

 

*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。顧問法務、不動産、太陽光自然エネルギー、中 国法務、農業、不貞による慰謝料、外国人の離婚事件等が専門。)

星野宏明
星野 宏明 ほしのひろあき

星野・長塚・木川法律事務所

東京都港区西新橋1‐21‐8 弁護士ビル303

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