韓国に存在すると言われる「国民情緒法」ってどんなもの?

■「国民情緒法」って何?

韓国で存在するといわれる国民情緒法は、一言でいえば、裁判官・裁判所が法解釈を超越して世論に迎合する判決を下す事態を意味します。

もちろん、実際に、韓国に国民情緒法という法律が制定されているわけではありません。

韓国の裁判所において、社会の関心が高い事案について、裁判官が世論感情(の多数派)に沿った結論を下すために、実定法(国会で制定された法律や憲法)の正しい解釈からすると相当無理がある結論を判決で導くことがあります。

法解釈の正しさよりも世論(国民の感情・情緒)を重視することから、それを批判する立場から、韓国には国民情緒法が存在する、という批評がなされます。

裁判

■少数派への不利益と予測可能性の欠如

現代の法治国家では、人治(権力者の自由な統治・支配)ではなく、法の支配によって、国家権力が運営されています。

司法権を担う裁判所も同じであり、国会で制定された法律と憲法に従って判決を下すのが原則です。

ところが、憲法はいうに及ばず、日本でも韓国でも、法律の条文はある程度抽象的に規定せざるを得ないため、法律の規定の解釈(法律を実際の事案に適用して結論を下すこと)は、得てして曖昧であり、異なる見解の存在が有り得ます。このことは日本でも同じです。

法律の条文からは一義的に個別事案の結論を導き出せないことの方が多いかもしれません。

そのため、多少無理矢理な解釈でも、世論に迎合して予め結論を決め、それに沿って法律の解釈をこねくり回すということが可能となります。

もっとも、このような司法権の行使は、一面で硬直的な法適用を回避できるという利点がある反面、迎合するのは世論の多数派でしかなく、少数派の立場からすると、不平等な裁判以外の何物でもありません。

また、法律の規定からは解釈が困難な結論を採用されると、事前に規定を把握してリスクを回避する行動をとること(経済活動の予測可能性)が難しくなります。

何より、法律解釈をいい加減に行っている裁判所に対する国民や外国の信頼が失われるという点で大きな問題を孕んでいます。

 

■「国民情緒法」が適用された例はある?

韓国の裁判所が判決を下すときには、当然、「国民情緒法を適用した」とは書きません。

したがって、明確に国民情緒法の影響を受けた事案というものは確定できません。

ただ、戦前の日本企業による韓国人徴用賠償や産経新聞ソウル支局長の名誉棄損裁判では、日本側に不利な判断がなされており、国民感情を考慮したのではないかと批評されることも多いです。

他方、逆にセウォル号の事件では、乗客を救助しなかった船長に対し死刑を適用すべきとの世論が多数でしたが、不作為による殺人罪で検察官が死刑を求刑したにもかかわらず、厳密に法解釈を行って殺人罪の死刑の適用は回避するなど、常に国民の感情論だけで裁判が行われているわけでもないようです。

なお、世界各国の独裁国家では、司法権の独立がなく権力者の意思(人の支配)によって判決が下されることも珍しくないので、韓国の「国民情緒法」による裁判だけが特異というわけでもありません。

残念ながら、世界的にみれば、きちんとした司法権の独立により、公正・公平な裁判が実施されている国の方がむしろ少数派というのが現状です。

 

*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。顧問法務、不動産、太陽光自然エネルギー、中 国法務、農業、不貞による慰謝料、外国人の離婚事件等が専門。)

星野宏明
星野 宏明 ほしのひろあき

星野・長塚・木川法律事務所

東京都港区西新橋1‐21‐8 弁護士ビル303

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