羽田空港や成田空港を利用する飛行機から外の景色を見ていると「ん??」と思うことがあります。
たとえば関西方面から羽田空港に向かう飛行機の場合、羽田空港から南へ50kmほどの地点を通り過ぎ、その後房総半島端っこまで行き、左旋回した後に羽田空港に着陸します。(下記右画像参照)
せっかく障害物のない空の便を利用しているのにもかかわらず、なぜ大回りをしているのでしょうか。もちろん東京都心部の上空を低空飛行できないなどの制限はありますが、もっと大きな見えない壁「横田空域」が存在しているからです。
それを避けるために大回りを余儀なくされていますが、横田空域を管制する横田基地は米軍の基地です。それでは、なぜ米軍の基地が日本の空の多くを占有しているのでしょうか。
■どのような法律に基づくものなのか
米軍による横田空域の管制権の法的根拠は、日米地位協定にあります。
話は第2次世界大戦に遡り、太平洋戦争当時、日本の領空を掌握した米軍は、安保条約に基づき、終戦後も日本に駐留することになりました。
その際、横田基地周辺の空域について、日米地位協定によって、米軍の管制を認めることになったのです。
したがって、米軍に横田空域の管制が認められている法的根拠は、安保条約に基づく日米地位協定ということになります。
■日米地位協定の内容
日米地位協定は、「協定」という名前になっていますが、国会承認がある2か国間条約ですので、日本政府に対する法的拘束力があります。
日米地位協定は、安保条約に基づき制定されたもので、日本国内の基地使用に関する事項や米軍人の刑事裁判権などを規定しています。
日米地位協定のうち、2、3、6条が横田基地の根拠となっています。
横田基地上空の広大な空域の管制権が米軍に認められている結果、たとえ民間航空機であっても、横田空域を通過飛行するためには、その都度、米軍に届出て許可を受ける必要があります。
現状、事前に一括して許可する運用はなされておらず、通常は非公開である米軍の飛行訓練などの事情により、理由を問わず不許可となる可能性も高いため、航空会社は定期便の飛行ルートとして横田基地上空を回避して飛行する以外には事実上選択肢がありません。
■横田空域による不便
とはいえ、横田空域を飛行できないことによる大回りにより、航空会社は余分な燃料を使用せざるを得ず、その分の費用は最終的には利用者負担となります。飛行時間が余計に多くかかることも言うまでもありません。
そのため、過去数回にわたって、横田空域の一部の返還がなされていますが、未だに大部分は、米軍の管制下にあります。無断で横田空域を飛行できない以上、今後も、空域の返還交渉を政府間で進める以外に改善策はありません。
皆さんも次回、羽田や成田を利用した際、離着陸する前後の飛行機の窓から、多摩地区にある横田基地の空域を避けて飛行する様子を観察してみて下さい。
*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。顧問法務、不動産、太陽光自然エネルギー、中 国法務、農業、不貞による慰謝料、外国人の離婚事件等が専門。)
*画像:定期航空協会 / 横田空域の民間航空機利用について 空域の早期返還