夜の繁華街、男性は女性に向かってこう言いました。
「もう妻と離婚するから浮気しても良いよ。」……こんな話が実際にあったかどうかは分かりませんが、離婚を前提に配偶者と別居中をしているときに、配偶者以外の異性と不貞行為、例えば浮気などをした場合、不法行為責任を負うのでしょうか?
不貞行為をしてもしてなくても離婚は決まっているという場合の責任について紹介します。
●結婚しているかではなく、関係が破綻しているかどうか
この点、不貞行為時に、すでに婚姻関係が破たんしているような場合には、不法行為責任を負いません(最高裁平成8年3月26日判決)。
なぜならば、不貞行為が不法行為となるのは、それが「婚姻共同生活の維持」という法的保護に値する利益を侵害するためであるところ、婚姻関係がすでに破たんしている場合には、もはや法的保護に値するような利益があるとはいえないためです。
そこで、婚姻関係が破たんしているかどうかは何を基準に判断されるのかが問題となります。
●別居しているかどうかが重要に
まず、別居の有無は婚姻関係の破たんを判断する際の重要な要素となります。離婚を前提に配偶者と別居をしていれば、別居したことをもって婚姻関係が破たんしたと認定される傾向にあります。
ただし、別居の理由が一時的な単身赴任であるとか、親の介護のために実家に戻っているなど離婚を前提にしない場合には、別居しているからといって婚姻関係が破たんしているとはいえません。
●他の要素は?
また、相手に対する離婚調停の申立ても、婚姻関係の破たんの有無を判断する際の考慮要素とはなりますが、直ちに破たんと認められるわけではないようです。離婚調停の申立てをするのは、本気で相手と離婚をしたいと思っている人ばかりではなく、調停をきっかけに夫婦生活をやり直したいと思っている人もいるためです。
さらに、家族旅行や行事を一緒に行っていたか、同じ寝室で寝ていたか、性交渉はあったのか等も破たんの有無を判断する際の考慮要素とされています。
以上のとおり、婚姻関係の破たんは、別居の有無、離婚調停申立ての有無、性交渉の有無等の客観的な事情によって判断されることになりますので、もう離婚するしかないなどと内心で一方的に思っているだけでは、婚姻関係が破たんしているとは認定されないということになります。
*著者:弁護士 理崎智英(高島総合法律事務所。離婚、男女問題、遺産相続、借金問題(破産、民事再生等)を多数取り扱っている。)