ナゼ?「移動中の選挙カーでは連呼行為しかできない」という謎の法律が存在する

統一地方選が後半戦を迎え、演説などが日に日に騒がしくなってきています。

ところで、駅前などで行われている演説では、政策について熱弁する姿が見られますが、移動中の選挙カーでは「スズキ、スズキ、スズキタロウをよろしくおねがいします!」のようなセリフばかりがひたすらに連呼されています。

実はこの連呼はやりたくてやっているわけではありません。それはなぜでしょうか?

選挙

■選挙カーが「連呼」ばかりする理由

結論からいうと、公選法の規定で、移動中の選挙カーからは連呼行為しか行ってはならない(連呼行為のみできる)と定められていることが原因です。

候補者からすれば、選挙カーでの移動中に何もしないのは認知度向上の観点から非効率ですので、移動時間も何か当選にメリットがあることをしたいと考えるのは当然です。

しかし、そもそも公選法では、移動中の選挙カーにおいては、連呼行為以外は禁止されているため、選挙カーでは、連呼行為ばかり繰り返される事態になるのです。

 

■公選法の規定

やや読みにくい条文ですが、面白い規定の仕方になっていますので、簡単に要旨をご紹介します。

141条の3

「何人も、・・・選挙運動のために使用される自動車の上においては、選挙運動をすることができない。ただし、停止した自動車の上(で)・・・演説をすること及び・・・自動車の上において・・・連呼行為をすることは、この限りでない。」

140条の2

「何人も、・・・連呼行為をすることができない。ただし、・・・午前8時から午後8時までの間に限り、・・・選挙運動のために使用される自動車・・・の上においてする場合は、この限りでない。」

2つの条文を組み合わせると、要するに、午前8時から午後8時までの間、移動中の選挙カーでは、連呼行為しかできない、ということになります。

 

■なぜ移動中の選挙カーで連呼行為を許したのか

立法経緯の詳細は不明ですが、1964年にポスター掲示などの規制強化と同時に決まったことから、規制強化とのバランスを考慮して許されたものと推測されます。

ただ、移動中の選挙カーでの演説を解禁し、無意味な連呼行為を禁止した方がよいという考えもあり、将来的には不合理な規定として改正される可能性もあるでしょう。

 

■日本の公選法には規制が多い

日本では、選挙運動に関する規定が、アメリカなどと比べて多く存在します。

地縁、血縁といったコネによる投票への影響力が大きいため、自由に任せていると、公平公正が担保されないとの考えによるものです。

代表的なものとして、アメリカでは草の根民主主義の根底であると考えられている個別訪問も昔から禁止されています。

 

■連呼行為も配慮が必要

公選法では、学校及び病院、診療所その他の療養施設の周辺においては、静穏を保持するよう努めなければならないことも定めており、候補者にも一定の配慮が求められています。

ただし、静穏保持は努力義務にすぎないので、迷惑と感じる連呼行為が後を絶たないのが現状です。

 

*著者:弁護士 星正秀(星法律事務所。離婚、相続などの家事事件や不動産、貸金などの一般的な民事事件を中心に、刑事事件や会社の顧問などもこなす。)

* m_spike / PIXTA(ピクスタ)

星野宏明
星野 宏明 ほしのひろあき

星野・長塚・木川法律事務所

東京都港区西新橋1‐21‐8 弁護士ビル303

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