先日、自社商品のLEDライトで富士山の山頂付近をライトアップしようとした会社が、批判的意見多数のために計画を中止したことを発表しました。
ライトアップ計画に対しては「悪趣味」、「星が見づらくなって光害だ」、「動植物に悪影響を与えてしまう」などの意見が寄せられていましたが、そもそも富士山の所有者は誰なのでしょうか。
そして、誰かの持ち物だとしたら勝手に人の持ち物をライトアップするということになってしまいますが、そのようなことが法的に許されるのかという点について解説していきたいと思います。
●富士山の所有者は誰なのか?
富士山の所有者は国かと思いきや、実は8合目以上の土地約400万㎡のうち、富士山測候所跡や登山道などを除く約385万㎡は富士山本宮浅間大社の所有地なのです。
もっとも、富士山の山頂付近は静岡と山梨の県境が未確定で土地表示がないため、神社の所有権は登記されていないとのことです。
●所有者の了承があれば山頂付近のライトアップはOK?
実際に了承するかどうかはともかく、神社や国が了承するのであれば、山頂付近をライトアップすることは法的に許されるでしょう。
もっとも、一般的に所有者が了承していれば他人の土地をライトアップしてもよいかというと、ライトアップが行政上の規制に引っかかる場合はあります。
たとえば、天体観測・生態系への影響・エネルギー資源への影響等を考慮して自治体が光害防止条例を制定していることがあります。
●富士山をライトアップした場合、所有者以外の人が訴えることができる?
それでは、
(1)ある人が「富士山は日本の象徴であり、悪趣味なライトアップをされて精神的苦痛を受けた。」
(2)天体観測愛好者が「裾野からの星空が見づらくなってしまったという被害を受けている」
(3)環境保護団体が「生態系への悪影響が出るためライトアップの差止めを求める」
としてライトアップした会社を訴えることはできるでしょうか。
答えは、「いずれの訴えも認められない」ということになります。
なぜなら、(1)~(3)の個人・団体はいずれも富士山の所有者ではないし、ライトアップによる悪影響は個人・団体への不法行為または人格権侵害とは認められないといえるからです。
法的には「富士山に何かされてもあなたは訴えることはできません」という冷たい結論にはなりますが、富士山及び富士山の自然は「国民全員のもの」という認識から、世界遺産にも登録された富士山をみんなで守っていこうという意識は歓迎すべきものだと思っています。
*著者:弁護士 木川雅博 (星野法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング。)