なぜ、子供が起こした事件・事故の責任を親が負うのか

最近、「子供の蹴ったボールで男性転倒、死亡…親の監督責任めぐり最高裁で弁論へ」という記事が話題になっていました。

どんな事件かを簡単に説明しますと、11歳の子どもが蹴ったサッカーボールが校庭側の門を超えて道路に飛び出してしまったところ、たまたまオートバイで通りかかった85歳の男性がボールを避けようとしてハンドル操作を誤って転倒し、その後、寝たきりの状態となって誤嚥性肺炎により死亡したという事件です。

1審、2審とも子どもの過失行為(逸れれば校庭外へ飛び出す方向へボールを蹴った行為)と死亡との因果関係があるとした上で両親の監督責任を認め、損害賠償請求の一部を認める判決を下していますが、最高裁が弁論を開いたということで結論が見直されるのではないかと報じられています。

では、なぜ1審と2審が両親の監督責任を認めたのかについて解説していきたいと思います。

家族

●ボールを飛び出させたことと死亡との因果関係

出発点は、ボールを飛び出させたことが原因でバイクが転倒したといえるかということにあり、これは問題なく肯定されるでしょう。それでは、ボールを飛び出させたことと死亡との間には因果関係があるのでしょうか。

判例は、因果関係の有無につき、過失行為から通常その結果や損害発生が生じるといえるかという判断枠組を採っています。

この事案の男性は85歳という高齢でした。そうすると、オートバイで走行中に転倒すれば骨折してしまうだろうこと、骨折してしまったら治りが悪く寝たきりになることが容易に想定され、寝たきりになれば痴呆や嚥下障害が発生してしまうことは普通の人の感覚から通常生じるといえるでしょうから、ボールを飛び出させたことと死亡との因果関係を認めたことは不当ではないといえます。

 

●なぜ子ども本人が責任を負わずに両親が監督責任を負うのか

民法上、損害賠償責任を負わせるためには、行為者に責任能力がなければならないとされています。責任能力とは、自分の行為が法律上の責任を負わされるものであることを十分に理解する能力のことを言い、おおよそ12歳くらいであれば責任能力があるとされています。

そして、子どもに責任能力がない場合には、子どもの監督者である親が十分な監督をしたことを立証できない限り、親が損害賠償責任(監督責任)を負うことになるのです。

この十分な監督をしたという立証が非常に難しく、裁判例では12歳前後の子どもが他人に損害を与えた場合、ほとんど親の監督責任が認められています。

今回のケースでも両親は通常のしつけをしてきたと主張してきましたが、1審、2審ともに十分な監督をしたとはいえないと認定しています。

 

●1審、2審の結論は妥当なの?

法律家(とくに裁判官)の間では、今回のようなケースの場合、両親が監督責任を負うことは相当だと言われていました。

しかし、子どもに対して、「サッカーをすることが禁止されていない校庭であっても、ボールをゴールに向かって蹴る際には周りの状況をよーく見て、ちょっとでも外に飛び出す危険があるなと感じたら決してその方向には飛び出すような強さでボールを蹴ってはいけませんよ。」と事細かに注意する人がどれだけいるか疑問に思います。また、遊びの種類に応じてきちんと監督してきましたということを立証することはかなり困難です。

したがって、いくら被害男性の過失や死亡の結果に寄与した部分を認定して賠償額を減額したとしても、私は今回のケースで両親に監督責任を負わせるのはやや酷だなという印象を持ちます。

今回、最高裁が結論を見直すとすれば、それは、人が1人死んでしまったことに対する責任を誰か(しかも賠償能力のある者)に負わせるべきであるという結論ありきで、安易に監督責任を認める裁判例の傾向に対して警鐘を鳴らす役割を持つことになるといえましょう。

 

*著者:弁護士木川雅博(星野法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング。)

木川 雅博 きかわまさひろ

星野・長塚・木川法律事務所

東京都港区西新橋1-21-8 弁護士ビル303

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