インターネットで知り合った女子高校生のスマートフォンに「遠隔操作アプリ」をインストールしたとして、岡山県に住む男性が不正指令電磁的記録供用容疑で逮捕されました。
遠隔操作アプリを使用し、男性の自宅にあるパソコンから女子高生のスマホを動かし、撮影や録音などができる状態になっていたという事です。この不正指令電磁的記録に関する罪ですが、あまり聞かない罪名かもしれません。一体どのような罪なのでしょうか?
■コンピューターウイルス作成の禁止
不正指令電磁的記録に関する罪は、平成23年の刑法改正で追加された比較的新しい犯罪で、平たくいえば、コンピューターウイルスを作成したり、他人から取得したり、あるいは保管したりする行為を禁止するものです。
■どういう場合に成立する?
不正指令電磁的記録に関する罪は、他人の電子計算機(パソコン)で実際に使用する目的(条文では「実行の用に供する目的」)で、他人がパソコンを使用する際に意図した操作ができなくなったり、意図しない動作を勝手にさせることが可能となるコンピューターウイルス(不正な指令)を作成した場合に成立します。
この他、他人が作成したコンピューターウイルスを取得したり、保管することも罪となります。
この類型の犯罪は、もともと刑法になかったものですが、平成13年に欧州評議会で採択されたサイバー犯罪条約に加盟するために、国内法を整備したものです。
作成罪の法定刑は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金とされており、決して軽い犯罪ではありません。
■類似の犯罪もある
不正指令電磁的記録に関する罪は、コンピューターウイルス作成の禁止に主眼をおいたものですが、類似の犯罪として、他人のIDパスワードを不正使用してログインすること等を禁じる不正アクセス防止法、パソコンに不正な指令を与える方法による詐欺行為を禁止する電子計算機使用詐欺罪などがあります。
■適用例は少ない
不正指令電磁的記録に関する罪は、制定から間もないこともあり、実務ではまだほとんど見かけない珍しい犯罪です。
サイバー犯罪は、一般に、ネット上で行われ、痕跡を掴むことや、犯罪行為を捜査機関が認知することが難しく、被害者が被害に遭ったことにすら気づいていないこともあり、簡単には摘発できないという事情があります。
そのため、ネット社会の現代においては被害数はそれなりにあると推測されますが、立件される数はそれほど多くありません。とはいえ、これからますますネット社会が発展するにつれ、重要性や適用されるケースが増えてくるかもしれません。
*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。顧問法務、不動産、太陽光自然エネルギー、中 国法務、農業、不貞による慰謝料、外国人の離婚事件等が専門。)