就職活動が本格的なシーズンを迎えるこの時期、学生にとって気になることの1つに「学歴フィルター」があるかもしれません。
学歴フィルターとは、就職活動において入社希望者を一定レベル以上の大学に在籍していることで選別するシステムのことで、企業の基準に満たない大学に在籍する学生は、能力の高低に問わず選考を勝ち進む事ができません。
このようなシステムは、学生から見ると不公平な扱いをされていると感じるでしょう。この学歴フィルターが何かしらの法律や憲法に違反することはあるのでしょうか?
●「不当な差別」か「営業の自由」か
性別での就職差別を禁止する男女雇用機会均等法や、年齢制限を禁止する雇用対策法などの各種規制がありますから、学歴フィルターも違法ではないかと考えることも出来ます。
学生から見れば、不当な差別で憲法14条に違反すると言えるかも知れません。
逆に企業から見れば、優秀な人材を探す一つの指標として学歴フィルターを使っているだけということでしょう。憲法の条文を持ち出すなら、憲法22条の営業の自由の範囲内と言うことになると思います。
●有名な「三菱樹脂事件」とは
最高裁判例では、有名な三菱樹脂事件があります。
三菱樹脂事件とは、学生運動をしていたのにしていないと嘘をついて採用試験に受かった人が後に学生運動をしていたことが判明してしまい、採用を取り消され、その取り消しが憲法に違反するとして訴えた事件です。
地方裁判所と高等裁判所は学生の思想信条の自由を重視して学生を勝たせましたが、最高裁は、企業の営業の自由(採用の自由も含まれます)を尊重し、企業を勝たせました。
この判例では、企業の採用の自由を広く認めていますので、学歴フィルターも憲法に反することにはなりません。
ちなみに、この事件では、後に学生と企業が和解し、正式に入社することになり、その学生は子会社の社長にまでなりました。
●現状、違法ではない
今後、何らかの立法がなされ、学歴フィルターが禁止されるかもしれませんが、今のところ禁止する法律もないので、違法ではありません。
就職活動は、子供のころから始まっているとも言われます。つまり、良い小学校、中学校、高校と進ませるのは、良い大学に入るためだと言うことです。
そのような生き方も一つの生き方だと思いますが、下位校出身者や高卒でも起業したり、転職などによって成功している方も大勢います。学歴フィルターや大手の企業ばかりを気にしすぎずに、自分に合った人生を歩むべきだと思います。
*著者:弁護士 星正秀(星法律事務所。離婚、相続などの家事事件や不動産、貸金などの一般的な民事事件を中心に、刑事事件や会社の顧問などもこなす。)