書籍などをスキャンして電子書籍化することを「自炊」といいます。
書籍を電子化する際、データを「自分で吸い込む」ことから「自炊」と呼ばれるようになったとのことですが、この自炊をすることについては前々より、著作権法に絡んだ問題点などが指摘されています。
例えば、自炊を自炊代行業者に依頼すると、現状では違法になると考えておいた方がよいのですが、自分で自炊する場合は違法にはなりません。
では、自分で買ってきた本でない場合、たとえば図書館から本を借りてきて自炊する場合、問題ないのでしょうか。
■自炊が許される根拠は?
著作権がある著作物を、著作権者の承諾なくコピーすれば、著作権法違反となるのが原則です。
しかし、私的使用の範囲であれば、著作権者の承諾は不要とされます。自炊も、あくまで私的使用の範囲であれば許されることになります。
図書館の蔵書についても、これと別に考える必要は特にありません。そのため、図書館から借りてきた本であっても、またたとえば友人から借りた本であっても、自炊をすることは特に問題ありません。
■「私的使用」はどこまでOK?
では、どのような利用であれば「私的使用」といえるのでしょうか。
著作権法は、私的使用を「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること」と定義しています。したがって、たとえば「会社で利用しよう」とか「友達に渡そう」といった場合は、これに当たらないことになります。
また、私的に使用するつもりでも、スキャンしたデータをインターネットで誰でも見ることができるようにしてしまったら、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」とはいえません。
したがって、このような場合も、私的使用とはいえないことになります。
■自炊を代行してもらうことは問題になる
ちなみに、自炊を代行してもらうとういことは、私的使用の範囲に含まれないというのが、現在の実務(知財高裁平成26年10月22日)の考え方です。
争いのポイントは、自炊(複製)をしている主体は誰なのかという点でした。
自炊代行業者側は、「顧客が複製の主体で業者は手足にすぎない」と主張していたのですが、裁判所は「業者が複製の主体」と判断しています。
この判決によると、たとえ自分が本を買って自炊を業者に頼んだとしても、私的使用の範囲には含まれないため、著作権法違反となります。
そのため、図書館の本を自炊するにしても、必ず自分の手で行うのが無難でしょう。
*著者:弁護士 清水陽平(法律事務所アルシエン。インターネット上でされる誹謗中傷への対策、炎上対策のほか、名誉・プライバシー関連訴訟などに対応。)