仕事で疲れて寝てしまった、スマホや読書に夢中になっていた、目的地が各駅停車しか停まらない駅なのにうっかり急行に乗ってしまった……という経験は1度くらいあるのではないでしょうか?
そのような時、乗り過ごした先から目的の駅まで戻ることがあるかと思います。しかし、よくよく考えてみると、戻る分の切符は購入していないのに乗車していることになります。また、目的の駅を乗り過ごしてしまった場合も、購入した運賃で乗れる距離よりも遠くまで利用している事になります。
これらの行為は違法となってしまうのでしょうか?今回は日常生活でやりがちな、電車を利用するうえでの違法行為などについて、ケースごとに解説していきます。
■無賃乗車の罪?
鉄道営業法は、有効な乗車券がないのに乗車した者を2万円以下の罰金または科料という形で処罰すると規定しています。無賃乗車した者を処罰する規定です。
このような規定があるのは、無賃乗車の横行から鉄道事業者の経済的利益を保護するためです。ただし、検察官がこうした無賃乗車の罪について起訴するためには、鉄道事業者の告訴が必要とされています。
■乗り過ごした場合は犯罪ではない
この場合、乗り過ごし自体は、わざと行ったわけではありませんので、何の犯罪にもなりません。
■目的の駅まで戻る行為はアウト
問題は、乗り過ごしを黙って目的の駅まで戻る行為です。こうした行為は、無賃乗車であるとわかってやっているわけですから、形としては無賃乗車の罪に当たります。
しかし、一般的には駅員に申し出れば許されることです。鉄道会社によっては誤って乗ってしまった区間の運賃を徴収しない旨の定めを設けているところもあります。悪質でないですし、やむを得ない面もあるので、告訴されるまでのことはないかと思います。
駅員に指摘された場合、とりあえず説明して指示に従った方がいいでしょう。
■始発に乗るために逆方向の電車に乗った場合
朝夕の混雑ラッシュで座れるようにするため、空いている目的の駅と逆方向の電車に乗って座りそのまま折り返し駅で折り返すという人もいます。
こうした乗客に対処するため、整列乗車(折り返し駅でいったん乗客を全員降ろさせてから乗車させる方法)を実施している駅もあります。
この場合、折り返し駅から目的の駅までの乗車券を持っていれば問題ありません。持っていない場合、乗った駅と折り返し駅との間の往復分について乗車券を持っていないわけですからこの部分について無賃乗車ということになります。
通常であれば素直に認めて謝り既定の運賃や違約金を支払えば告訴まではされないと思いますが、他の乗客とトラブルを起こして発覚したような場合や何回も繰り返したような場合、告訴されることもあるのではと思います。
■痴漢する目的で気に入った異性を追いかけ乗り過ごしてしまった場合
痴漢目的で駅のホーム辺りにいて異性を物色し、気に入ったら同じ車両に乗って痴漢行為をしようとする輩もおり、状況によっては乗り過ごしになる場合もあるかと思われます。
この場合、痴漢について未遂あるいは否認して言い逃れしても、無賃乗車については言い逃れできないと思いますので、既定の運賃・違約金の支払いを請求されるでしょうし、悪質として告訴され処罰されることもあるのではと思います。
*著者:弁護士 冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)