連日のように殺人事件が報じられ、中には親が子を殺すという事件も少なくありません。
殺人を犯すとかなり長い懲役刑が言い渡されるイメージを持っている方は多いかもしれませんが、親が子を殺した事件に対しては5年以下とされることが少なくないようです。そして、これに対して、「人を殺したのに短すぎる」という声も少なくありません。
しかし、親が子を殺す行為だから刑罰が軽いというわけではありません。
親が子を殺した場合でも、例えば虐待の末の殺害については厳しい刑罰が科せられます。
刑罰が懲役4年と軽いのは、具体的な事案で刑の減軽事由が認められ、量刑を判断する上でも同情できる事情があったからだと考えられます。詳しく解説していきましょう。
■量刑とは?
量刑というのは、刑罰の上限下限の範囲内で具体的にどういった刑罰を被告人に宣告するのかを裁判所が決定する作業のことをいいます。
殺人罪の場合、仮に刑の加重事由や減軽事由がなければ、上限が死刑、下限が5年以上の懲役です。
■刑の「減軽事由」とは
刑の減軽事由とは、法律で定められた刑(「法定刑」といいます)の上限下限の引き下げが認められる事由のことです。
刑の減軽事由としては法律上の減軽事由と裁判上の減軽事由があります。法律上の減軽事由は色々ありますが、心神耗弱の場合、未遂の場合、自首の場合等々です。
心神耗弱というのは、精神の障害により事物の是非・善悪を弁別する能力またはそれに従って行動する能力が著しく減退している場合のことをいいます。裁判上の減軽事由は、犯罪の情状に酌量すべきものがあるときに認められる刑の減軽です。
減軽事由が認められる場合、上限が「死刑」であれば、上限が「無期の懲役か禁錮または10年以上の懲役」となります。下限については、法定刑が「5年以上の懲役」であったのであれば、その2分の1の「2年6月以上の懲役」ということになります。
■想定される理由
被害児童の父親が無責任で母親が精神的に追い詰められて犯行に及んでしまった、加害者である親が親族等に頼ったり相談したりすることもできず精神的に追い詰められて犯行に及んでしまった、加害者である母親が出産直後著しい疲労に襲われ不安定な精神状態だった等、同情できる理由があったものと想定されます。
そこで、裁判上の減軽事由である酌量減軽が認められ、法定刑の下限を下回る懲役4年となったのではと考えます。
*著者:弁護士 冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)