一年で一番寒いこの季節、北海道や東北、北陸などの豪雪地帯では、必ずと言っていいほど、落雪によるケガや死亡事故が起こります。
雪下ろし中に屋根から落下して雪に埋もれてしまったり、雪かき中に落ちてきた雪に埋もれてしまうなどの事故が多く発生しますが、最近では安全の為につけていた命綱が絡まって落下してしまったという事故もあったようです。
このような場合、被害者や遺族は、「自然現象によるものなので仕方がない」と、治療費などの財産的損害や慰謝料の請求を誰にもすることができないのでしょうか。今回は、この問題について考えてみたいと思います。
■建物の所有者や、借主が責任を負う場合がある
例えば、数日間雪が降り積もり、屋根の雪下ろしなどをしなければ落雪をする危険性がかなり高かったにもかかわらず、これを放置したために落雪し、これによって、通行人がケガをしたり亡くなったりしたようなケースでは、その家に実際に住んでいた人(持家であれば所有者、貸家であれば借主)が、損害賠償責任を負う場合があるといえます。
雪国では、落雪により通行人がケガを負ったりしないよう、落雪防止措置を施すべき注意義務が一般的に課されていると考えていることが可能でしょう。
落雪の危険があるほど雪が積もっているのに、雪下ろしなどの落雪防止措置を講じなかったということは、この注意義務に違反しており、過失があると考えることができます。そのため、不法行為責任が成立し、損害賠償責任を負わねばならないことになるのです。
また、家屋に施されていた落雪防止設備が壊れていたにもかかわらず、これを放置していたようなケースでも、同様にその家に実際に住んでいる人が、損害賠償責任を負う場合があると考えられます。
設置業者による設置方法が不適切だったために事故が起きたようなケースでも、被害者や遺族は、実際の居住者に責任追及することができます。
設置業者を特定しなければならないとすると、責任追及する機会を失ってしまうからです(賠償責任を課された居住者は、のちに設置業者に求償することが可能です)。
■責任を問われない場合、軽減される場合
しかし、想定外の落雪事故が起きた時まで、家の持ち主や借主に賠償責任を負わせるのは酷であるといえます。
したがって、例えば、短期間に想定外の大雪が降り、雪下ろしなどをする間もなかった、落雪防止設備が機能する範囲を超えてしまった、というケースでは、過失がなかったとして賠償責任なしと判断される可能性があると考えられます。
また、明らかに落雪の危険があり、また、他に通行できるスペースがあるにもかかわらず、通行人がわざわざ軒下を通行していたようなケースでは、事故に遭ったことについて通行人にも過失があるといえるので、このようなケースでは、家の持ち主や借主の責任は軽減され、場合によっては責任なしとされる可能性もあり得ます。
筆者自身も雪国の生まれであり、子供のころは、冬になると、両親からよく「軒下を歩いてはいけない」と注意されてきました。
家の持ち主・借主、付近を通行する人、それぞれが、事故が起こらないよう自分にできることをするだけで、冬期間の悲しいニュースはずいぶん減るように思います。
*著者:弁護士 寺林智栄(ともえ法律事務所。法テラス、琥珀法律事務所を経て、2014年10月22日、ともえ法律事務所を開業。安心できる日常生活を守るお手伝いをすべく、頑張ります。)