個人を恫喝するための訴訟「SLAPP訴訟」って何?

裁判

「SLAPP訴訟」という言葉を聞いたことはありますか?

これは「strategic lawsuit against public participation」の略称で、直訳では「対公共関係戦略的法務」となります。

なかなか聞き慣れない言葉ですが、アメリカを中心に多く行われ、日本でも近年行われている訴訟の種類の1つです。

今回はこの「SLAPP訴訟」が具体的にどのような内容の訴訟を指すのかを解説していきます。

 

■SLAPP訴訟とは

法的な用語ではないので、正確な定義はありませんが、一般には、「提訴することによって被告を恫喝することを目的とした訴訟」として理解されているようです。

日本では聞きなれない言葉ですが、元は訴訟大国アメリカなどで問題となり始めたものです。

具体的な例では、消費者運動、フェミニズム、平和運動、反差別運動、反公害・環境運動などを行う団体や市民個人に対し、事業者等の強者・開発業者・製造企業が、損害賠償請求訴訟を提訴することで、反対の立場の団体・市民個人の動きを封じることを意図する、ということがあるようです。

 

■「2つの権利」の対立

このSLAPP訴訟は、上で述べたように、表向きは「民間開発業者・民間企業 VS 反対運動の市民」の通常の損害賠償請求訴訟という形をとっています。

したがって、法的には何ら問題がないと言わざるをえません。

なぜなら、憲法で、市民(企業も含みます。)全てには裁判を受ける権利が保障されているからです。

この裁判を受ける権利とは、民事訴訟であれば自己の主張が法的に正しいかどうかを裁判所で判断してもらうことを核心とするので、当然のことながら、法的に正しい請求の訴訟であると確信して訴訟提起しなければならないわけではありません。

仮に、請求が認められるかは微妙、あるいは勝訴の可能性は高くないが、勝てないこともない、ということで訴訟提起し、結果的に敗訴になったら全て訴訟が違法になるというのであれば、裁判を受ける権利が十分に保障されないことになってしまいます。

つまり、業者が訴訟を提起することは原則として自由だということです。

他方、市民が反対運動をすることも、表現の自由として、やはり憲法上厚く保障されています。

そのため、業者からの不当な訴訟によって、表現の自由が脅かされることも避けなければなりません。

 

■「2つの権利」の調和

業者の裁判を受ける権利も、反対する市民の表現の自由も憲法上の重要な権利だとすれば、結局のところ、どう調和させるかを考えるしかありません。

従来、日本では、この問題についてあまり議論がされてきませんでしたが、不当訴訟を提起されたとして、被告が反対に原告を不法行為で訴えたという事例はいくつかありました。

判例では、裁判を受ける権利を重要視し、請求の法的事実的根拠を欠くことを容易に認識しながらあえて訴訟に出るなど、訴訟提起自体が著しく相当性を欠く場合でない限り、訴訟提起は違法とならない、と判断しています。

したがって、仮にSLAPP訴訟だとしても、日本で訴訟提起自体が違法とされるのは、嫌がらせ目的が明白でよほど悪質な場合に限られるでしょう。

 

*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)

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星野宏明
星野 宏明 ほしのひろあき

星野・長塚・木川法律事務所

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