2014年も残すところわずかとなり、年が明ければお餅やおせち料理が振る舞われることでしょう。
そして、毎年この時期をにぎわすニュースのひとつに「餅による窒息事故」があります。ご高齢の方を中心に、餅を喉に詰まらせ亡くなられる方もいます。
同じく喉に詰まらせて亡くなられた方が頻発した食品では、こんにゃくゼリーが一時期メディアを賑わせました。こんにゃくゼリーでは製造者の責任を追及する報道がなされていましたが、餅についてはそのような報道は見かけません。
餅を喉につまらせた場合でも、誰かが責任を負うのでしょうか。また、こんにゃくゼリーとの扱いの違いの原因はどこにあるのでしょうか。
今回は、星法律事務所の星正秀先生に、この点について伺ってみました。
■もちで死亡しても製造者は責任を負う
「ある製品を使用して事故が起こった場合に、その製品を作った者が負うとされる責任のことを、製造物責任と呼びます。少し細かく説明すると、第1義的には、もちを販売した小売店の不法行為責任あるいは債務不履行責任が問題となります。」
「ただ小売店だと小規模なものが多く、被害者の被害を救済できない可能性もありますので、もちを製造した会社の製造物責任が問題となります。」
まず実際に事故の原因となった餅を消費者に売った業者の責任が問題となり、その後に製造業者の責任が問題となるようです。餅による損害賠償の話は耳慣れぬことですが、損害賠償の問題は起こりうるようです。
■自分たちでついた餅によって事故が起きた場合、餅をついた人は責任を負う場合がある
「もちをついた人に故意、過失があれば、上記の不法行為責任を負う可能性はあります。製造物責任は負いません。」
「故意とは、この場合は、喉に詰まりやすいもちを食べさせようとする意思です。過失とは、不注意で喉に詰まりやすいもちをついてしまったということです。さらに、このもちを食べれば喉に詰まるということを予見可能でないと過失にはなりません。」
餅をついた人が責任を負う場合があることに驚かれた方もいることでしょう。ただし、普通についた餅を食べさせただけで損害賠償責任を負うことには必ずしもならないようです。
「ちなみに、販売目的でもちをついて売る場合と、仲間内でもちをついて食べる場合の故意過失の内容は変わってきます。当然前者の場合がより厳しい内容となります。」
そうであるならば、仲間内でもちをついて窒息をさせた場合に損害賠償責任を負うケースは、あまりないといえるのかもしれません。
■刑事事件に発展する可能性は?
「民事事件としても問題にするのは難しいですから、刑事事件になる可能性は低いと思います。故意過失の内容は民事も刑事もほぼ同じです」
「ですが、その認定の厳密さが違います。当然、刑事事件の方が認定が厳密ですので、立件するのは難しいです。」
■こんにゃくゼリーと餅の、取り上げられ方の違いについて
「全くの推測ですが、もちを喉に詰まらせて死亡する事故は割と多く、もちの危険性は広く認識されています。それなのにもちを食べて死んでしまっても、食べた方が悪いという判断になるのかも知れません。」
他にも、餅が日本全国に文化として馴染んでいることや、多くの人々に食べる習慣が広まっていることから、なかなか攻撃対象とならないのかもしれません。
餅を詰まらせても法的な責任問題が生じることが明らかとなりましたが、せっかくの美味しい冬の風物詩でありますから、不幸な事故が起きないように楽しみたいものです。
*著者:弁護士 星正秀(星法律事務所。離婚、相続などの家事事件や不動産、貸金などの一般的な民事事件を中心に、刑事事件や会社の顧問などもこなす。)