京都府で当時75歳の男性が毒殺された事件で、容疑者として逮捕された妻がこれまでに4度結婚し、全員と死別、交際相手も含めると周辺では少なくとも7人が死亡し、10億円近くの遺産を相続していたと報じられています。
しかし、自分の配偶者を殺害して、その財産を相続できるなんてことがあるのでしょうか。そこで、今回は知っておくべき相続の基本的な知識と、今回報道されているケースについて、広尾総合法律事務所の桐生貴央先生に聞いてみました。
●そもそも相続とは何?誰ができる?
「相続とは亡くなった方(被相続人)が残した財産を残った身内の者が引き継いでいくことです。相続できる人のことを相続人といいます。
民法によると、必ず相続人になれる人(法定相続人)は、亡くなった方の配偶者、つまり亡くなった方のご主人や奥様です。但し、ご主人や奥様は戸籍に入っていなければならないので、内縁関係の方は法定相続人にはなれません。
そして、被相続人の子、この「子」も戸籍に入っていなければならないので、戸籍上の配偶者との間に生まれた子か認知している子でなければなりません。
次に、夫婦の間に子がいない場合には、親ないし祖父母。親ないし祖父母がいない場合には兄弟姉妹ということになります。」
●遺言を書いても、効力が認められないことはあるが…
「遺言には、大きく分けて、自分自身が手書きで作る自筆証書遺言と公証役場で作る公正証書遺言があります。
自筆証書遺言には法律で定められたルールがあるので、このルールに従わなければ無効となります。公正証書遺言は公証役場で作成するので、自筆証書遺言のようなルールについて心配する必要はありません。
但し、自筆証書遺言の場合も公正証書遺言の場合も、遺言書を作る判断能力がなければなりません。従って、ご自分が何をしているのか判断できていない方の遺言書は無効となります。また、遺言は満15歳以上の方でないと作成できないという年齢制限もあります。」
今回の事件の容疑者は、何人もの男性に財産贈与の公正証書を求めていたことが明らかになっていますが、公正証書遺言ならば、その効力が後で否定されることは少ないといえそうです。
●特定の人にすべての遺産を相続させるとの遺言があると、法定相続人は何ももらえなくなる?
「相続人には、遺留分と言って、相続人の生活確保のために最低限これだけは確保できるというものがあります。しかし、遺留分が保証されている相続人は、配偶者、子供、父母だけで法定相続人の第3順位である兄弟姉妹には遺留分は保証されていません。
相続人が遺留分を確保するためには、遺留分減殺請求をする必要があります。この請求は、相続開始、および自分の遺留分が侵害されていることを知った日から1年、あるいはそれを知らなくても相続開始の日から10年以内に行わないと時効で消滅するので注意が必要です。
遺留分の割合についてですが、配偶者や子供が相続人にいる場合は相続財産の2分の1、相続人が親だけの場合は相続財産の3分の1になります。」
もし、自分の配偶者等がまったく財産を自分には残してくれなかった場合は、自分にも少し財産をわけてくれるように主張できるということですね。しかし、死亡した人に子供等がいなければ、遺言ですべての財産について贈与を受けた人はそのまま全部の財産を受け取ることができることになります。
●もし相続のために殺人をした場合、遺産を受け取ることができる?
「故意に被相続人、先順位・同順位の相続人を死亡するに至らせ、または至らせようとしたために刑に処せられた者については、相続欠格事由にあたりますので、相続人にはなれません。
なお、この場合、『刑に処せられた者』が要件であるため執行猶予付きの有罪判決において執行猶予が満了した場合や実刑判決が確定する前に死亡した場合は欠格事由にはあたりません。」
今回の事件でも、容疑者が配偶者を殺害したとして刑を受けることになれば、遺産を受け取ることはできないということになります。今回の様な話まではなくとも相続においてはトラブルが起きやすく、その前に仕組みを知っておくことが家族や自分のためにも必要かもしれません。
*取材協力弁護士: 桐生貴央(広尾総合法律事務所。「人のために 正しく 仲良く 元気良く」「凍てついた心を溶かす春の太陽」宜しくお願いします。)