電車やバスなどで、カバンに「おなかに赤ちゃんがいます」と書かれたマークを付けている女性を見たことがある人も多いのではないでしょうか。
あれは「マタニティーマーク」といって、妊産婦が交通機関等を利用する際に身につけ、周囲が配慮を示しやすくするのを目的に作られたものです。
しかし実際には、妊婦でない人が、妊婦から「マタニティマーク」をもらったり、ネットオークションなどで入手して身に付け、席を譲ってもらうなどの便宜を得る行為が散見されるということです。
そこで今回は、このような行為をすることに法的な問題はないのか、また、マタニティマークが譲渡される背景にどのようなものがあるのか、考えることにしたいと思います。
■マタニティマークとはなにか?
マタニティマークとは、厚生労働省が、妊娠初期の女性の健康維持や胎児の成長のために、交通機関等を利用する際に見つけてもらい、周囲の人に対して配慮を促すことを目的として、配布しているものです。
妊産婦に着用が義務付けられているものではなく、また、着用していることによって、法的に利益を得るということも特にありません。
■マタニティマークの譲渡や妊産婦以外の人が使用することの法的問題
この点については、いずれも道義的な問題はあるものの、法的な問題はないという結論になります。
厚生労働省のホームページにも出ていますが、マタニティマークは、特に使用する名義が固定されているものではないので、最初に取得した人が他人に譲渡することによって、名義を偽ったという問題は生じません。
また、持っていることによって得られる利益も、通常考えられるのは、混んでいる車内で席を譲ってもらった、優先して禁煙席を案内してもらったなどの、人の好意によるものであり、お金や財産的な利益を得たりすることはありません。ですから、詐欺などの犯罪行為にもならないのです。
■なぜ、マタニティマークは譲渡されるのか
マタニティマークの譲渡が行われる背景には、わざわざ自分が妊産婦であることを周囲に知らせる必要性が、妊娠初期のごく短い期間に限られることがあります。
この期間を過ぎてしまえば、お腹が大きくなり、周囲の人の配慮を得られやすいので、マタニティマークは不要となり、気軽に譲渡されることとなるのではないでしょうか。
確かに、道義的には問題があるマタニティマークの譲渡ですが、妊娠初期は予期せぬ体調不良に陥ることが多い時期でもあります。周囲の人の配慮を促すマタニティマークの存在意義は、失われていないように思われます。
*著者:弁護士 寺林智栄(琥珀法律事務所。2007年弁護士登録。法テラスのスタッフ弁護士を経て、2013年4月より、琥珀法律事務所にて執務。)