先日、とある自治体で自治会を脱退したところ、家の周りの街灯が外されるなどの措置を自治会側が行ったというニュースが話題になっていました。
高齢のため、年に何度も行われる行事などが負担となったため、脱退すると告げたら、自治会の区長に「私より若いんだから、できないわけない」と言われ、その後、ゴミ捨て場が撤去され街灯も外されたようです。これらの言動に対して、自治会ネット上では「村八分だ」などと言われている状況です。
ところで自治会にこのような「報復」をする権限があるのでしょうか。そもそも、自治会とは何なにか、報復された側は法的にどのような措置を採ることができるか、考えていきます。
■自治会とは何か
自治会とは、集落や都市の一部地域の住民が、親睦や住民の生活の便益を図る目的で作る団体のことです。「町内会」などと呼ばれることもあります。
法律上の根拠はなく、あくまで自主的に組織される団体にすぎません。ですから、住民が自治会を作る義務はありませんし、自治会が住民に対して加入を強制することも会員の脱退を禁止することもできません。
■現代における自治会の問題
最近は、若年層が自治会に加入することが少ないため、自治会の加入者が高齢化し、かつ減少傾向にあるようです。そのため、役員の成り手がいない、自治会費が集められない、親睦行事を行えない、会の存続が危ういといった問題が生じているようです。
一方、住民の側からすると、親睦行事における負担が重い面、加入のメリットも感じられないため、未加入・脱退といった問題につながっているようです。
■脱退者に対する報復?措置の是非について
冒頭にもお話ししたとおり、自治会は住民に対して加入強制することはできません。脱退者に対して嫌がらせをしたり、脱退しようとしている人に対して「やめるとこうなる」などと脅したりすれば、自治会長や実際に嫌がらせや脅迫をした人、協力した人らが、慰謝料を請求される可能性があります。また、脅迫の内容や頻度によっては、実際に脅迫をした人だけでなく、指示した人や協力した人には、脅迫罪(刑法222条)や強要罪(刑法223条)が成立し、罰金刑や懲役刑が科される可能性があります。
そもそも、街灯の設置場所について自治会は意見をいうことはできますが、設置自体は自治体などの行政機関にこれを行う権限があります。仮に無断で撤去しているのだとしたら、行政から自治会に対して新たな設置費用など損害賠償請求がなされる可能性も否定できないのではないでしょうか。
■今後の自治会像とは
今までの自治会は、日本の昔ながらの農村における「むら社会」的な運営方法をとってきたといえます。
しかし、現代では、特に都市部において、近隣住民同士の関わりはほとんどなく、また、それで困ることもないため、自治会に加入する必要性を個々の住民が感じていないのが実情です。
とはいえ、自治会は自治体の下請け的な役割を果たしている側面があり、かつ市町村議会に代表を送り込む「集票マシーン」としての機能を果たしているともいわれています。住民の利益の実現を媒介する役割を担っていることは、現在でも否定できません。
自治会側としては、住民に圧力をかけるのではなく、自治会の役割や加入のメリットを伝える機会や方法を模索して脱退を防ぐことが必要ではないでしょうか。
*著者:弁護士 寺林智栄(琥珀法律事務所。2007年弁護士登録。法テラスのスタッフ弁護士を経て、2013年4月より、琥珀法律事務所にて執務。)