マンションの階数や広さなどによってヒエラルキーが発生し、大勢の前で自分より安い部屋に住んでいることを知りながら「お宅は何階なの?」などの嫌味などを言ったり、高額なランチをわざと誘って反応を楽しむなどの陰湿な嫌がらせなどがママ友コミュニティで頻発しているようです。
マンション内での立場の差を、カースト制度に見立てて「ママカースト」と呼び、高層マンションが立ち並ぶ都心部では見過ごせない問題となっているようです。
場合によっては嫌味というよりイジメに近いこともありそうですが、この様な行為がなんらかの法律に触れる事は無いのでしょうか。
結論から言いますと、嫌みを言ったり、高額なランチを誘うだけでは何ら法律に触れないと考えます。しかし、いくつか問題となりそうな法律の規定を検討いたします。
■侮辱罪・名誉毀損罪
侮辱罪は、具体的な事実を摘示しないで公然と人を侮辱する罪です(刑法231条)。
名誉毀損罪は、公然と事実を摘示して他人の名誉を毀損する罪です(刑法230条)。
侮辱罪も名誉毀損罪も、人の社会的名誉や名誉感情を保護するために、犯罪とされ刑罰が設けられています。
侮辱とは、事実を摘示しないで人の社会的評価を害し名誉感情を害する表示を行うことをいいます。例えば、ママ友に向かって「貧乏人」とか「泥棒」とか言ったりした場合です。
名誉毀損とは、人の社会的評価を害するおそれのある状態を発生させることをいいます。例えば、ママ友が何処どこのタイムセールで何々を漁っていたとか、ママ友が何処どこのスーパーで何々を万引きをしていたとか、ある事ない事を言いふらした場合です。
嫌みを言ったり、高額なランチを誘うだけでは、相手の社会的評価や名誉感情を害するようなものといえず、侮辱罪も名誉毀損罪も成立しないと考えられます。
■強要罪
強要罪は、脅迫または暴行によって人に義務のないことを行わせたり、権利の行使を妨害したりする罪です(刑法223条1項)。
強要罪は、人が意思を決定したり、その決定にしたがって意思を実現する自由を保護するために、犯罪とされ刑罰が設けられています。
強要罪が成立するためには、人の意思決定の自由に影響を及ぼす程度の脅迫か暴行が必要であり、少なくとも人に畏怖を感じさせる程度の脅迫や人に対する暴行が必要です。例えば、ママ友に対し、ランチの誘いを断れば万引きの事実をみんなに言いふらすと言う場合や、腕を掴んで強引にランチに誘おうとした場合です。
ママ友からのランチの誘いは、確かに断りにくいかもしれませんが、こうした脅迫や暴行が認められない以上、強要罪は成立しません。
以上のように、法律に触れないと思うわけですが、嫌がらせを受けている方としては堪りません。また、嫌がらせをする方も、一時の優越感を味わうために嫌がらせをして、そのために、その後恨まれ続ける事もあるはずです。嫌がらせは止めましょう。
*著者:弁護士 冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)
*参考:http://www.asahi.com/housing/zasshi/TKY200802200245.html(「お宅は何階の部屋?」 ママカースト制の終わらぬ地獄)