夏休みも終わりを迎えるこの時季、小学生や中学生が頭を悩ませるのが、宿題や夏休みの研究です。しかし、近年は、宿題や研究に悩む子に代わって、これらを請け負う代行ビジネスが流行っているといわれています。
ドリル1冊数5,000円、読書感想文などの作文1枚5,000円などの価格設定になっているようで、受験勉強を優先させたい親が宿題代行を依頼することもあるということです。
しかし、本来学生が自分ですべき宿題を他人にやってもらうことに、法的な問題はないのでしょうか。検証してみます。
■犯罪にはならないのか
まず、思い浮かぶのは文書偽造罪(中でも私文書偽造罪)です。
しかし、私文書偽造罪が成立するには、(1)他人の印章もしくは署名を使用して、(2)権利、義務若しくは事実証明に関する文書または図画を偽造することであり(刑法159条1項)、具体例を挙げると、他人の運転免許証や健康保険証の名前を自分や架空の人物の名前に書き代えることなどが挙げられます。
宿題は、そもそも「権利、義務若しくは事実証明に関する文書または図画」には該当しません。したがって、宿題は文書偽造際にはなりません。
学校の先生を欺いているので、詐欺罪(刑法246条)になるのではないかと考える人もいるかもしれません。しかし、そもそも詐欺は、人を欺いで財物を交付させた場合に成立するものですから、単に提出するだけで金品の交付を伴わない宿題代行は、詐欺罪には該当しません。
他にも該当しうる犯罪は見当たりません。宿題代行は、犯罪にはならないといわざるを得ません。
■場合によっては、著作権法違反になりうる
学校側が、宿題代行会社に対して、損害賠償を請求すること(民法709条)もできません。宿題代行されることによって、学校側に財産的な損害が発生しているとはいえないからです。
ただ、代行業者が、宿題を行う過程で(例えば研究など)、書物の内容や添付されている写真などを無断転用したような場合には、著作権法違反となり、損害賠償請求等の対象となる場合がありえます。
■道義的には宿題は自分ですべきもの
宿題代行を違法というのは難しい状況です。しかし、だからといって、お金を払って知らない他人に宿題をやってもらうことは、決して良いこととはいえないでしょう。
報道によれば、代行業者に宿題を頼むのは、受験のための勉強に忙しく学校の宿題をやる子が多いとのことですが、受験を理由に学校の宿題を見も知らない他人にお願いするというのは、本末転倒です。第一、それでよい点や成績を採ったとしても、それは自分の力ではありません。
一生懸命自分の力で頑張って宿題をやってきた他の子ら(このような子もいると信じたいものですが)を出し抜く卑怯な行為ともいえるでしょう。
宿題は、せいぜい両親に手伝ってもらう程度にして、自分でやるべきものではないでしょうか。
*著者:弁護士 寺林智栄(琥珀法律事務所。2007年弁護士登録。法テラスのスタッフ弁護士を経て、2013年4月より、琥珀法律事務所にて執務。)