7月29日、三鷹ストーカー殺人事件の公判で、検察官が無期懲役刑を求刑しました。
報道によれば、論告の中で、検察官は、池永被告が、交際中に撮影した被害者のプライベート画像を事件前後にインターネットに流出させたことにも触れ、被害者を侮辱し名誉を汚したなどと述べたとされています。検察官は、池永被告が行っていた、いわゆる「リベンジポルノ」についても触れたと受け取ることもできます。
今回は、「リベンジポルノ」が、三鷹ストーカー殺人事件裁判で、刑の重さを左右する要素となるのかについて考えます。
■「リベンジポルノ」自体は、どのような罪に問われるか。
リベンジポルノとは、別れた元恋人や元配偶者の裸体の画像や動画を、別離後に嫌がらせや復讐目的でインターネットに流出させる行為を指します。
リベンジポルノは、それ自体、名誉棄損罪(刑法230条)、わいせつ物頒布罪(175条)に該当するほか、ケースによっては、脅迫罪(222条)、強要罪(223条)に該当する可能性があります。また、被害者が18歳未満の場合には、児童ポルノ禁止法違反となります。
■「リベンジポルノ」は三鷹ストーカー殺人事件で罪の重さを左右するか。
今回、池永被告は、住居侵入、殺人、銃刀法違反で起訴されており、リベンジポルノについては、起訴されていません。したがって、リベンジポルノそれ自体を処罰することはできません。
しかし、起訴された罪について刑の重さを決める上で、「悪情状」の要素として考慮される可能性は十分にあると考えられます。
刑の重さを決める要素は多種多様です。結果が重大かどうか、犯行の態様が悪質かどうかということだけでなく、犯行の動機や犯行に至る経緯に酌量すべき事情があるかどうかといったことも、考慮されます。
例えば、同じ殺人事件でも、年老いた夫が、やはり年老いた認知症の妻を殺害したような場合には、妻の認知症の程度や周囲の支援の状況、夫が妻の介護で精神的に追い詰められていた状況などを考慮したうえで、量刑がかなり軽くなる場合があります。
逆に、犯行の動機や犯行に至る状況に酌量すべき事情がない場合には、その点を考慮して刑が重くなる可能性があります。
池永被告は、被害者の女性を誰にも奪われたくないという思いから、執拗にストーカー行為を繰り返し、その過程でリベンジポルノという悪質な嫌がらせ行為を行って、精神的に被害者を追い詰めたり、屈辱的な思いをさせた挙句に殺害したといえるでしょう。
つまり、今回の件では、動機や犯行に至る経緯に酌量の余地がないといえるひとつの事情として、リベンジポルノは、池永被告の刑を重くさせる方向に働く可能性があると、筆者は考えます(ただし、裁判員裁判の判決文は短時間で作成するので、明確に判決文の中にリベンジポルノについて触れられるかどうかまではわかりません)。
判決言い渡しは、8月1日です。リベンジポルノについて判決文の中で言及されるのか、されるとしてどのように言及されるのか、そして、どのような刑が池永被告に下されるのか、注目されます。
*著者:弁護士 寺林智栄(琥珀法律事務所。2007年弁護士登録。法テラスのスタッフ弁護士を経て、2013年4月より、琥珀法律事務所にて執務。)