「赤ちゃんポスト」の設置が一時期話題になりました。
「赤ちゃんポスト」は、熊本市にある慈恵病院が、「小さな命を救いたい」という思いから病院内に設置した、新生児を預かり保護する施設です。慈恵病院では、「こうのとりのゆりかご」という名称で設置し、妊娠に悩みを抱える親の相談も受けているようです(慈恵病院のホームページ参照)。
今回は、このような「赤ちゃんポスト」に新生児を預ける行為が犯罪である保護責任者遺棄罪(刑法218条)に当たらないか検討したいと考えます。
結論としては保護責任者遺棄罪に当たらないと考えます。
■保護責任者遺棄罪の保護法益
保護責任者遺棄罪は、被疑者を保護すべき義務を負っている者が被害者を遺棄した場合に成立する罪です。
保護責任者遺棄罪は、被害者の「生命」を危険から守るため、刑法で犯罪とされています。
■「遺棄」とは?
以上のように、保護責任者遺棄罪の保護法益が「生命」であることから、「遺棄」とは、要保護者がいる場所から離れることにより要保護者に「生命」の危険を生じさせる行為をいいます。
「赤ちゃんポスト」は、新生児の命を守るために預かり保護する施設です。
したがって、「赤ちゃんポスト」に新生児を預ける行為は、路上・公園・神社等に置き去りにする場合と異なり、通常であれば要保護者に「生命」の危険を生じさせることはありません。
そこで、「遺棄」に当たらず、保護責任者遺棄罪が成立しないと考えるわけです。
保護責任者遺棄罪は成立しないと考えるわけですが、道徳的・倫理的には問題がある行為ですので、「赤ちゃんポスト」に預ける前に、よく考えるべきことはもちろん、相談できるところに相談して欲しいと思います。
*著者:弁護士 冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)