辞めさせてくれない会社を辞めるには…対処法を弁護士が解説

最近浸透してきた「ブラック企業」と呼ばれる会社では、人材の使い捨てが横行していて、些細なことでクビになるという話をよく聞きます。

しかし、他方で、辞めたくても辞めさせてくれない会社も多く、こういう会社も「ブラック企業」というカテゴリーに入れてよいと思います。

具体的には、退職を申し入れた労働者に対して、「引継ぎを終了するまで辞めさせない。」、「引継ぎ未了で退職したら、損害賠償請求する。」等と言って、労働者を脅す会社なんかがまさにそうですね。

では、運悪く、このような会社に入社してしまった労働者が退職を希望する場合、どのようにすればよいか、以下に解説していきます(なお、以下では、会社が退職に合意する「合意退職」の場合は想定していません)。

残業

■1…退職の申し出期間

まず、会社が労働者を解雇する場合と異なり、労働者が自発的に退職する場合には、解雇権濫用法理(労働契約法16条)や予告期間に関する規定(労働基準法20条)の適用はなく、民法627条、628条の規制を受けるにとどまります。

この民法の規制は雇用契約に期間の定めがあるかどうかで大きく異なり、期間の定めのある雇用契約では、原則として期間終了まで退職することはできず、「やむを得ない事由」がある場合に限って直ちに退職できます。ここにいう「やむを得ない事由」とは、例えば、重大な病気を患って労務を提供できなくなるような場合なんかがあてはまりますね。

次に、期間の定めのない雇用契約においては、退職の意思表示をしてから2週間経過後に退職可能です。ただし、月給制の場合、賃金の支払い計算期間の前半に退職を申し出るとその期間満了後に退職できますが、後半に申し出た場合は次の支払い計算期間の満了までは退職できないという規制があることに注意が必要です。

では、就業規則に上記の民法の規定と異なる退職のルールが定められている場合はどうでしょうか?この場合、上記規定より短い申し出期間が定められている限り、労働者にとって有利ですから特に問題になりません。他方で、上記規定よりも長い申し出期間が定められている場合には、その分、労働者の退職の自由が制限されるわけでして、民法と就業規則のどちらが優先するか問題になります。

この点について、東京地方裁判所の昭和51年10月29日判決(高野メリヤス事件)は「民法第627条の予告期間は、使用者のためにはこれを延長できない」と判示しており、民法が優先する(就業規則で民法よりも長い申し出期間を定めても無効)としました。もっとも、民法627条は任意規定である(そう解すると、就業規則が優先する)とする見解も有力であり、この点は最高裁判例の登場が待たれるところです。
いずれにせよ、就業規則で退職の申し出期間を「1年前」等と極端に長く定めても、同規定は公序良俗に反し、無効になると言われています。

 

■2…退職の意思表示

退職の意思表示の方法については民法上特に規制はありませんので、「退職届」等の書面に限らず、口頭でも退職の意思表示は有効です。ただし、就業規則で「退職届」の書式や提出方法が定められている場合には同規則に従った方法で退職の意思表示を行うことになります。

なお、口頭で退職の意思表示をした場合、「言った」、「言わない」の問題になってトラブルに発展しやすいので、退職の意思表示は書面やメール等、「いつ」、「誰に対して」行ったかを客観的に明らかにできる方法で行うのが無難でしょう。

仮に退職届を上司に渡そうとして受取を拒否された場合には、内容証明郵便で会社宛に送るか、メールで明確に「何月何日付で退職する」という意思を伝えるほかないと思います。

 

■3…退職をめぐるトラブルを避けるには

退職の申し出期間に関するルールは上記1の通りですが、実際には、業務の引継ぎ等の問題がありますので、退職の意思表示はできるだけ早い時期に行うのがよいでしょう。

業務の内容や会社の規模にもよりますが、退職予定日の3か月前くらいに会社に伝えておけば、会社もあれこれと文句を言うことは少ないのではないでしょうか。

しかし、会社が「辞めたら損害賠償する」等といって脅迫してきた場合には、臆することなく断固とした態度をとらなければ、いつまでたっても怖くて退職できないということになりかねません。

基本的には、退職の申し出期間を遵守している限り、会社による損害賠償請求は認められませんので心配無用ですが、不安であれば労働基準監督署や法律事務所に相談されるとよいでしょう。

 

*著者:弁護士 川浪芳聖(琥珀法律事務所。些細なことでも気兼ねなく相談できる法律事務所、相談しやすい弁護士を目指しています。)

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