■株主総会とは何か?
上場会社の株主総会もピークを過ぎ、経営陣の多くはホッとしているところだと思いますが、この株主総会、会社の最高意思決定機関として会社の持ち主である株主と経営陣が一同に会するメインイベントであり、株主が経営陣と接点が持てる数少ない場面です。
ここで株主総会のことを会社の最高意思決定機関といいましたが、これは株主総会を国権の最高機関である国会に置き換えていただければ、ご理解いただけると思います。
主権者たる国民の代表からなる国会が国権の最高機関であるように、会社の実質的所有者である株主からなる株主総会が会社の最高意思決定機関となるわけです。
そして、経営陣は内閣に当たり、代表取締役は内閣総理大臣ということになります。
■総会屋とは何か
この株主総会を巡っては、これまでも「荒れる総会」だとか「シャンシャン総会」だとか言われる株主総会がありましたが、この株主総会で暗躍して来たのが所謂「総会屋」と呼ばれる人たちです。
この「総会屋」、城山三郎氏の「総会屋金城」に代表されるように小説の題材にもなりましたが、日本において、総会屋とは株式会社の株式を若干数保有し、株主としての権利行使を濫用することで会社等から不当に金品を収受又は要求する者を指します。
何故、このような者たちが暗躍するようになったかというと、結局のところ、株主総会をうまく乗り切りたいと考える現経営陣や経営陣どうしの対立によるところが大きいのではないでしようか。
そもそも、上場会社では株主数が数万人に及ぶことが多く、外国人株主もいたりする中で、すべての株主が株主総会に出席して意思を表明することはできません。
そのため経営陣たちは株主から委任状を集めたりするわけですが、採決は慣例的に賛成多数・満場一致をもって執り行いますので、最小単位の株式しか持たないのに複数で株主総会に乗り込み、大声をあげて議事の進行を妨害する人たち(総会屋)の存在感が大きくなってきます(この妨害についてですが、総会をスムーズに進行したいと考える立場からすれば進行の妨害に見えるますが、総会屋の質問で現経営陣の考え方が分かれば妨害でもなんでもないので、妨害に映るかどうかは立場の違いによります)。
このような者たちが大きな声を張り上げて議事の進行を妨げるということになれば、経営内容を十分に把握しきれていない他の株主からすると、うちの会社は一体どうなっているんだ?このような状態では現経営陣に経営を任せるわけにはいかないという雰囲気になってきます。
ちょうど政権交代選挙が行われた時、多くの人が大手テレビ局などの報道の影響を受けたように、報道の役割に当たるのが彼らのような存在です。
この総会屋の存在によって、国会で内閣が内閣不信任案を突きつけられるように、現経営陣は そ彼らの煽り行為によって、場合によっては、自分たちの首が緊急動議にかけられるかもしれないと考えるかもしれません。
総会屋が何も知らない株主を誘導して現経営陣の意図とは異なる方向に株主総会を仕切るということになれば、彼らに主導権を握られたくない現経営陣としては、総会屋をなんとしても取り込みたいと考えます。
ここで出てくるのが鼻薬です。
人を自分の味方に引き入れる最も簡単な方法が鼻薬を嗅がせることです。
しかし、金で解決しようとすれば、総会屋からの要求もエスカレートしていき、鼻薬も単なる鼻薬ではすまなくなってきます。
というのも、総会屋を取り込みたいと考えるのは、現経営陣だけではなく、現経営陣と敵対関係にある者たちも総会屋を取り込みたいと考えるからです。
内閣は閣内一致を掲げておりますが、その中であっても総理の意に沿わない大臣がいたりします。これと同じように経営陣の中は全てが代表取締役の意に沿ったものとは限らず、対立した役員もいたりします。
そこで、この反対陣営も総会屋を使って、現経営陣の陥れを図ろうとするわけです。
金で引き入れようとすると金でひっくり返る。
当然、総会屋は両陣営を天秤に測りながら値踏みをしていきます。
となると、薬代もかさむことになり、取締役のポケットマネーでは到底賄えず、ゆくゆくは会社の金に手を出すことになります(もっともポケットマネーから出そうという気はサラサラないでしようが。。。)。
会社の金に手を出すということは、まさに会社に対する背任行為ということになりますし、総会屋が反社会的勢力につながっていたりすることから、総会屋に流れた金は反社会的勢力の資金源になったりします。このままでは、会社は総会屋にしゃぶりつくされ、株主の利益は損なわれてしまいます。
■総会屋と法律
このような中で、会社が反社会的勢力の食い物にされないよう総会屋を排除するために商法、会社法を通じて何度も法律改正が行われてきました。
罰則の強化と集中摘発による総会屋と企業トップの逮捕、企業に対する啓蒙活動と何よりも企業と総会屋との癒着を断ち切るという企業側の強い意志、と同時に、バブル経済崩壊後の外資参入により株主総会にも異文化が入り込み、もの言う株主が増え、コンプライアンス意識の高まりと、密室政治の排除から(ディスクロージャー)、総会屋が付け入る隙が徐々になくなり、ピーク時8000人を超えた総会屋の数も今や壊滅状態となっております。
もちろん、これらの影には我々弁護士の活躍もありますが、関係各位の努力により、病巣が取り除かれるのは日本経済にとって大変喜ばしいことです。
*著者:弁護士 桐生貴央(広尾総合法律事務所。「人のために 正しく 仲良く 元気良く」「凍てついた心を溶かす春の太陽」宜しくお願いします。)