店頭で気に入って購入した洋服。しかし、家に帰って着てみたら、思ったよりもサイズが大きかった、試着時には気づかなかった汚れや破損を見つけた、などという経験をしたことがある人もいるのではないでしょうか。
このような場合、返品できるかどうかについては、民法上の原則と実際で、若干の違いがあるようです。そこで、今回は、その点も踏まえながらお話しします。
■サイズミスの場合の民法上の原則
サイズミスの場合には、民法上の原則からすると、通常は返品できないと考えられます。
サイズというのは洋服を買う上での重要な要素になりますので、これを勘違いするケースは、民法上の「錯誤」(95条)というものに該当すると考えられます。
錯誤に該当する場合には原則的に契約は無効となりますが、錯誤に陥ったことに重大な過失があるといえる場合には、無効が主張できないという例外があります。
洋服を買う場合、多くの方は試着をしてサイズを確かめているはずです。そのうえで、サイズを間違えることは、重大な過失に該当することとなるでしょう。ですから、返品はできないと考えられます。試着せずに買ったのであれば、なおさら重大な過失があったと認定されるでしょう。
ただ、試着後に店頭に出ていない未開封の同一商品を、店側が別途用意してサイズミスが生じた場合には、その際の確認のしかたによっては、錯誤を主張して返品ができる場合もあり得ます。
■汚れや破損があった場合の民法上の原則
汚れや破損があった場合には、先ほどお話しした錯誤の主張が法律上可能です。
また、店側としては、当然、汚れや破損がない完全なものを引き渡す義務がありますので、その義務を怠ったことを理由に返品することも可能です(民法415条等。但し、アンティークショップや古着屋で洋服を購入する場合には、このような原則は当てはまらない可能性があります)。
しかし、汚れや破損を購入後に見つけた場合には、汚れ具合や破損の状態によって、明らかに購入前についたと証明することができないこともあります。
特にタグを切ってから気づいた場合には、購入後にこのような事態が生じたのではないかという疑いが残ります。
購入前に汚れや破損が生じたことは、返品を求める側が証明しなければなりません。証明できない場合には、錯誤などを主張して返品を要求することはできないでしょう。
■実際はどのように取り扱われているか
実際には、特に量販店などにおいて、サイズ違いの返品について柔軟に応じているところがあるようです。
筆者自身もとある量販店でインナーのサイズを間違えて購入した時に、返品に応じてもらった経験があります。量販店においては、類似の商品が多数置いてあり、サイズミスが生じやすいため、柔軟な対応をしているのではないかと考えられます。
ただ、セレクトショップなどでは「返品お断りいたします」などと店内に断書をしているところもあり、そのようなところでは、サイズミスによる返品には応じてもらえないでしょう。
汚れや破損については、実際にも、明らかに購入前に生じたものとわかるとき以外には返品に応じてもらえないと考えるのが無難ではないでしょうか。
*著者:弁護士 寺林智栄
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