【問題】「腕を引っ張る行為」は傷害と暴行どちらでしょうか

先日、高校生が小学生に対してランドセルを後ろから引っ張ったり、腕や耳を引っ張る行為が暴行罪(刑法208条)に問われる、という事件がありました。

そこで、今回は、罪に問われる「暴行」というものについて考えてみたいと思います。

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■刑法上の「暴行」とは?

実は、日本の刑法には「暴行」が犯罪成立の要件になっている罪名がいくつかあります。

代表的なものでは、先ほど挙げた暴行罪の他、強盗罪(246条)、強姦罪(178条)、公務執行妨害罪(95条)があげられます。

これらの犯罪が成立するために必要とされる「暴行」の程度は異なります。

例えば

・暴行罪が成立するための「暴行」:人の身体に対する不法な有形力の行使

・公務執行妨害罪が成立するための「暴行」:人に向けられた不法な有形力の行使

と定義されており、前者よりも後者の方が広い意味となります。

公務執行妨害罪が成立する暴行の例としてよく挙げられるのは、逮捕現場で警察官が押収した覚せい剤注射液入りのアンプルを踏みつけて破壊した行為です。

このような行為は、「人の身体」に向けられたものではないため、暴行罪は成立しません。逆に、冒頭に挙げた行為は、「人の身体に向けられた」ものといえるため、暴行罪が成立すると言えます。

公務執行妨害罪の「暴行」が広くとらえられているのは、警察官による取締などを円滑に行うことができるようにするためと考えられています。

一方、強盗罪や強姦罪が成立するためには、暴行罪の暴行よりも強度の暴行が必要であるとされています。

例えば、強盗罪では「相手の犯行を抑圧しうる程度の不法の有形力の行使」、強姦罪では「相手の犯行を著しく困難にする程度の不法な有形力の行使」とされています。強盗よりも強姦のほうが厳しくなっています。

これは、強盗や強姦を犯すにあたっては被害者側も必死で抵抗することが予想されるためと考えられます。

腕や耳を引っ張る程度の暴行では、どちらの犯罪も成立しません。典型的な例を挙げると、被害者を縛り上げて現金などを盗んだ場合には強盗罪の、被害者を姦淫するために押し倒した場合には強姦罪の、それぞれ暴行があったと考えられます。

 

■傷害罪と暴行罪の関係

なお、「傷害罪」(刑法204条)は、通常、暴行によって生じるものです(法律上、これだけに限られませんが)。

この場合に必要とされる暴行は、暴行罪でいうところの「暴行」です。つまり「人の身体」に向けられた有形力の行使があって、その結果、被害者が怪我を負った場合に、傷害罪が成立します。

冒頭の例で、例えば、高校生が小学生のランドセルを引っ張った結果、その小学生が転倒して腕をすりむいたりしたような場合には、傷害罪が成立することとなります。

 

*著者:弁護士 寺林智栄(琥珀法律事務所。2007年弁護士登録。法テラスのスタッフ弁護士を経て、2013年4月より、琥珀法律事務所にて執務。)

寺林 智栄 てらばやしともえ

ともえ法律事務所

東京都中央区日本橋箱崎町32-3 秀和日本橋箱崎レジデンス709

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