5月に入り、暖かな陽気が感じられる日も増えてきました。
とはいえ真夏に入っているわけではないので、衣服の選択によっては急な気温の変化に対応できずに、暑すぎたり寒すぎたりと意外な不便を感じることが多いようにも思います。
「窓閉めて欲しいんだけどな…」「クーラーつけてもいいかな…」といった無用なフラストレーションで業務に差し障りがあるようなら会社としては損失です。社内が寒すぎて風邪をひいたり、社内が暑過ぎて気分が悪くなるなど実害を生じさせないためにできることはあるのでしょうか?
労働トラブルを防ぐという意味で、弁護士の私が法律の観点から考えてみたいと思います。
■「暑い寒い」紛争と法律
空調を巡る問題は法律問題とは無関係のように思えます。しかし、労働安全衛生法という法律の中で、事業者は、快適な職場環境を形成するよう努力すべきこと、「作業環境を快適な状態に維持管理するための措置」を講ずるよう努力すべきこととされています。
空調を巡るトラブルを会社側が放置しておくことによって、即なんらかの責任を会社が負わなければならないということではありませんが、例えば、このような状況を放置したために一方的に我慢を強いられた人が、それが原因で体調不良となった場合には、「会社が必要な措置を講じなかった」として、法的な責任を追及される可能性もあり得ます。
■「快適な職場環境形成」のための指針
労働安全衛生法71条の3では、快適な職場環境の形成のための措置に関して、厚生労働大臣は、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとされています。そして、この規定に基づく指針については、平成9年に改正されたものが最新のものとなっているようです。例えば、会社の休憩室や相談室などは、この指針に基づいて設置されているといえるでしょう。
この指針によれば、快適な職場環境形成のための措置を実施するにあたっては、労働者の意見ができるだけ反映されるように必要な措置を講ずるよう事業者が努めることとされています。
■具体的に解決するには
具体的にどのような措置を講ずるべきかは、各事業者に委ねられることとなります。しかし、例えば、「自分の担当部署の管理職にメールしてください」などとしたところで、入りたての新入社員や契約社員、パート職員が、課長や部長に向かって、「空調を何とかしてください」などとは、そうそう言えるものではありません。
社員ひとりひとりが自分たちの仕事や作業に見合った快適な環境を享受できるようにするためには、その会社の規模、社員の職種、地位に合わせて、会社の方が、各社員の意見をくみ上げやすい仕組みを作ることが必要でしょう。
「暑い寒い」紛争の解決方法は、風通しの良い働きやすい職場を作るための方法と同じなのです。
*著者:弁護士 寺林智栄(琥珀法律事務所。2007年弁護士登録。法テラスのスタッフ弁護士を経て、2013年4月より、琥珀法律事務所にて執務。)