個人がどんな治療を受けたかが記録されている診療報酬明細書(レセプト)の情報を、その分析依頼を受けた専門業者が匿名化した上で、データベースとして販売するビジネスが広がっている、と報じられています。
レセプトには、氏名、生年月日、病名、薬剤名などが記載されているので、この情報を見れば誰がどのような病気に罹患しているのかという、かなりセンシティブな情報が分かることになります。
では、このような情報提供には法的問題がないのか検討してみたいと思います。
■個人情報に当たる場合が出てくる可能性がある
個人情報とは「特定の個人を識別することができるもの」とされますが、レセプト情報はまさに個人情報の塊といえます。個人情報に当たれば、当該個人の同意を得なければ、第三者にその情報を提供することはできないのが原則です。
健保が分析を専門業者に委託するために情報を渡すことは、第三者提供の禁止の例外とされます。
では、分析業者がさらにその情報を匿名化して販売することはどうでしょうか。
一般的に、匿名化されていれば、特定の個人を識別することはできなくなるため、個人情報ということはできなくなります。
ただ、個人情報保護法では、「他の情報と容易に照合することができ,それにより特定の個人を識別することができる場合」も個人情報に含むとされています。記事でも指摘されていますが、患者の少ない特殊な病名に性別や年代を組み合わせれば、個人を識別することができる可能性があり、そうなれば個人情報に含まれることになります。
また、匿名化した情報であっても、多くの他の周辺情報を持つ者にとっては個人を特定し得る情報になり、「個人情報」に当たる可能性があるのです。
このように、個人情報保護法にいう「個人情報」というのは、匿名化しているから常に問題ないというものではないという性質があります。
■販売を規制する法律はない
個人情報には当たらないという前提であれば、分析業者がデータベースとして販売することに、法律の規制はないということになります。
しかし、分析依頼を受け無償で手に入れた情報(むしろ分析の依頼を有償で受けているはずです)を加工して販売し利益を得ることには、不当性を感じざるを得ません。
いわば法の抜け穴をうまく突いているビジネスともいえます。
■健保は個人を守る契約の締結を
法律が十分に適用し得ないということであれば、健保に守ってもらうしかありません。
そのため、健保には、「分析業者がデータベースとして販売する」事例があるということを認識してもらい、分析業者との間で、提供した個人情報を加工して販売することが契約違反となるような内容の契約を締結していってもらいたいところです。
また、法律の制定はすぐには難しくとも、ガイドラインなどの形で法の抜け穴を手当てしていく必要があるのではないかと思います。
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