貸金業者に払いすぎた利息を取り戻す「過払い金返還請求」というものがあります。
これを弁護士でなく司法書士に依頼した女性が、司法書士がもつ本来の権限を超えるとして契約は無効である、と報酬金の返還を求める訴えを起こしました。
裁判所の判断が注目される本件について、弁護士の私が解説してみたいと思います。
■司法書士の業務範囲
司法書士の業務は、主に、登記手続(不動産登記や商業登記)の代理や書類作成の代行ですが、法務大臣の認定を受けた司法書士については、経済的利益が140万円以下の事件に限って、弁護士と同等の代理権が認められています。
裏を返せば、経済的利益が140万円を超える事件の場合には、本人を代理して貸金業者と交渉したり、裁判において本人の代理人として訴訟活動を行えないということです。
仮に、経済的利益が140万円を超える事件について、本人の代理活動をした場合には、司法書士法に違反するとともに、非弁行為として、弁護士法72条にも違反することになります。
■今回のケースでは
今回のケースでは、記事を読む限り、司法書士は、本人の代理人として訴訟活動を行っていたわけではなく、本人の代わりに裁判所に提出する書面を作成し、裁判には本人に出席してもらっていたということなので、形式的には、司法書士法や弁護士法には違反していないように思われます。
もっとも、「訴訟支援」という名目で、経済的利益が140万円を超える事件を受任し、事件を代理した場合と同等の報酬を得ていれば、実質的には、140万円を超える事件を代理したともいえそうです。
司法書士が、書類作成の援助業務を行う場合の報酬は、回収額に対するパーセンテージ(成功報酬)ではなく、書類作成枚数等に応じて決められるはずであり、訴訟を代理した場合の報酬よりも低額であることが通常なのではないでしょうか。
今回のケースでは、司法書士は、返還額の28パーセント、という事件を代理した場合と同等(もしくはそれ以上)の報酬を得ていますので、実質的に見れば、請求額が140万円を超える事件を代理したとして、弁護士法に違反しているともいえるでしょう。
■契約が無効となるか
仮に、本件の司法書士の行為が非弁行為に当たり、弁護士法に違反する場合、依頼者と司法書士との間の委任契約が無効となるかについてですが、判例上、弁護士法違反(非弁行為)の行為については、無効とされています(最高裁昭和38年6月13日判決)。
そのため、上記判例の判断に従えば、今回のケースでも、依頼者と司法書士との間の委任契約は無効となりそうです。
もっとも、仮に、委任契約が無効だとしても、依頼者が司法書士に対して、支払済みの報酬金の返還請求ができるかどうかは微妙です。
というのも、依頼者としては、司法書士が法律上140万円を超える事件について代理権がないことを知っていたでしょうから、依頼者としても、司法書士の非弁行為に手を貸したとして、依頼者が司法書士に支払った報酬は、不法原因給付(民法708条本文)となり、支払済みの報酬の返還請求権が認められない可能性があります。
今後の裁判の行方が注目されるところです。