会社員が過重労働でうつ病になった場合、過去の精神科通院歴などを会社側に申告していなかったことが社員側の過失に当たるかが争われた訴訟で、最高裁は3月24日、控訴審判決を破棄し、高裁に差し戻しました。
控訴審において、会社側は、
「社員から精神科に通院しているといった申告を受けていれば、うつ病にならないよう何らかの対応ができたにもかかわらず、社員が通院歴を申告しなかったために対応を取ることができなかった。対応を取ることができなかった責任の一端はその社員にもあるはずだ」
と主張していました。
控訴審は、通院歴等を会社側に申告しなかった社員の過失を認め、過失相殺により損害額の2割を減額しました。
しかし、最高裁は、社員から精神的健康(メンタルヘルス)の申告がなくても会社側に安全配慮義務があるため、社員に過失はないと判断し、会社側の主張を却下したのです。
■最高裁判決の理由
最高裁は、まず、社員(=上告人)の業務の負担は相当過重なものであったことを認めました。
その上で、
(1)精神的健康(メンタルヘルス)に関する情報は、通院歴、病名及び薬剤の処方等を内容とするもので、「自己のプライバシーに属する情報であり、人事考課等に影響し得る事柄として通常は職場においても知られることなく就労を継続しようとすることが想定される性質の情報」である。
(2)会社側は、社員からの「申告がなくても、その健康に関わる労働環境等に十分な注意を払うべき安全配慮義務を負っている」。
(3)社員にとって過重な業務が続く中でその体調の悪化が看取される場合には、メンタルヘルスに関する情報について、社員からの積極的な申告が期待し難い。会社側は、必要に応じてその業務を軽減するなど社員の心身の健康への配慮に努める必要がある。
(4)本件でも、会社側は、社員のうつ状態が過重な業務によって生じていることを認識し得る状況にあり、その状態の悪化を防ぐために社員の業務の軽減をするなどの措置を執ることは可能であった。
と判断したのです。
■まとめ
労働契約法第5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と規定し、会社には労働契約上の安全配慮義務があることを明らかにしています。
そして、今回の最高裁判決により、会社側は、安全配慮義務の一環として、「社員がプライバシーという個別事情を申告しなくても済むよう十分な配慮が行き届いた労働環境を提供する」という責任を負うことが明らかになりました。
会社側としてはどこまで社員の労働環境に配慮すればよいのか、今後の新たな課題となりました。