インターネット上で横行している電子書籍の海賊版対策のため、政府は、3月14日、紙の書籍だけに認めてきた「出版権」の対象を、電子書籍にも広げる著作権法改正案を閣議決定しました。
これにより、電子書籍の海賊版の流通が判明した際、出版社側が出版の差止めにつき法的措置をとることができるようになります。
今回は、この法改正により、具体的に何が変わるのか、現行法の問題点もふまえ、検討してみたいと思います。
著作物を権利者の許可を得ずに複製した、いわゆる「海賊版」の流通が判明した場合、著作者は著作権侵害を理由にその差止めを請求することができます。また、著作者から当該著作物の出版を許諾された出版社には出版権が認められ、法的措置をとっていくことができます。
しかし、出版権は「文書又は図画として複製する権利を専有する」(著作権法第80条)ものとされ、「文書又は図画」というのは、有体物を前提にしています。そのため、電子書籍はこれに含まれず、出版社側に出版権があったとしても、海賊版が電子書籍の形態をとっていた場合は出版権侵害を理由に法的措置をとっていくことができないという問題がありました。
そこで、今回の改正では「電子出版権」を規定することになりました。電子出版権は、著作物を電子書籍へダウンロードさせる権利であって、著作権者と出版社との間の設定行為により生じるとされます。
電子出版権者は、海賊版の電子書籍に対して、自らの電子出版権侵害を理由に法的措置を取っていくことができるようになるというわけです。
もっとも、今回の改正に、全く問題がないわけではありません。
■あえて設定行為を行わない可能性?
著作権者との契約に基づき出版権を設定された出版社は、著作権者から原稿の引き渡しを受けてから6か月以内に電子書籍を出版する義務を負うとされます。
電子出版権は、電子書籍の出版を行うことを前提に設定されるものですが、全ての書籍について電子書籍としての出版予定があるわけではありません。
そのため、その予定がない場合はあえて設定行為を行わないということも予想され、その場合は、結局、著作権者以外に法的措置をとれる者はいないということになります。
■電子出版権を異なる出版社に?
また、電子出版権は出版権者に当然に求められるものではなく、出版権設定契約とは別個に、設定行為が必要とされたことが挙げられます。そのため、著作権者は、紙媒体の出版権と電子出版権を、異なる出版社に与えることができます。
しかし、一般に、著作物はまず紙媒体で出版されるため、紙媒体の出版社は、当該作品を出版物として完成させるために、相当なコストをかけています。それにもかかわらず、電子出版権は別の出版社に設定できることとなってしまっては、作品完成への苦労が報われない、との批判も、大手出版社側から出ています。
とはいえ、日本書籍出版協会などの調査によれば、海賊版を原因とする国内の出版業界の損失額は平成23年の1年間でおよそ270億円にも上るといいます。このような現状を受け、海賊版の横行に対しては、一刻も早い対策が求められていました。そのため、本件改正による海賊版への対処・抑止効果には、大きな期待がなされるところです。
もっとも、一番の海賊版抑止対策は、各ユーザーが、海賊版の出版物を利用しないことです。今後は、ユーザーである私たち一人一人がこのことを意識することが、より大事となってくるでしょう。