先日、東芝の元技術者が、東芝の最先端技術を不正に持ち出し海外に流出させたとして不正競争防止法違反(営業秘密開示)の罪で逮捕されました。元技術者は「事実はすべて間違いありません」と認めているようです。
今回は、この不正競争防止法違反(営業秘密開示)の罪がどんな罪なのかについて解説したいと思います。
■不正競争防止法の目的について
不正競争防止法は、事業者同士が公正な競争を行えるようにと制定された法律です。
憲法上、日本国民には「営業の自由」が保障されています(同法22条1項)。
しかし、営業の自由が保障されているからといって、お金儲けのためにどのようなことでも許されるというのでは困ります。
他人の商標(トレードマーク)や商号(会社名)と紛らわしい表示をしてその他人が行っている商売のように思わせて売り込む行為、他人の著名な商標等を利用する行為、他人の商品の形を真似する行為、他人の営業秘密を侵害する行為等ずるい行為は、他人の商売に不当なダメージをあたえるわけですから、いくら営業の自由といっても認められるべきでなく、国が取り締まらなければいけないわけです。
そこで、不正競争防止法は、「不正」(=ずるい)競争を防止し、真面目な営業者の利益を保護するためのルールを定めているわけです。
■盗んだ営業秘密を開示した場合
不正競争防止法は、盗んだ営業秘密を他人に開示する行為も「不正競争」の一つとしています(同法2条1項4号)。
この「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報であって、公然と知られていないものをいうとされています(同法2条6項)。要するに「営業秘密」とは、秘密に値する情報で現に秘密として扱われているものです。
今回は、東芝のスマートフォンなどに使用されるデータ記憶媒体の最先端技術の研究データが対象ですが、秘密として厳重に管理されていたと考えられますので、「営業秘密」に当たり、これを盗んで開示する行為は「不正競争」の一つに当たります。
不正競争防止法は、不正競争を行った者に対する差止請求(同法3条)や損害賠償請求(同法4条)を認めていますが、それだけでなく被害を被った事業者が「告訴」した場合、不正行為を行った者に対する罰則も定めています(同法21条)。
したがって、盗んだ営業秘密を開示した者は、「10年以下の懲役」や「1000万円以下の罰金」といった刑罰を科せられる可能性があります(同法21条1項2号)。
今回、東芝の元技術者は韓国の半導体会社に転職して営業秘密を開示してしまったわけですが、日本国内で管理されていた営業秘密である以上、日本国外で開示したとしても不正競争防止法違反の罪となります(同法21条4項)。