佐村河内氏「名誉毀損」の訴えに勝ち目はあるのか検証

3月7日、佐村河内氏が都内のホテルで謝罪会見を行いました。

ゴーストライターであった新垣隆氏が、あたかも佐村河内氏が耳が聞こえるかのように発言したことに対して「名誉毀損」だとして訴訟を提起する意向を示していました。

もし、佐村河内氏が裁判を起こしたとして、勝てる見込みはあるのでしょうか。

佐村河内氏

名誉毀損における名誉とは、いったい何を言うのでしょうか。

これはその人に対しての社会的評価を言います。つまり、その人の社会的評価を下げるような発言は、その事実が真実であろうが虚偽であろうが、その評価が名声であろうが悪名であろうが名誉毀損になるのが原則です。

としますと、佐村河内氏が、全聾の作曲家として、現代のベートーベンとしての社会的評価を受けているにもかかわらず「佐村河内氏は耳が聞こえる」という発言は、この評価を根本から覆すもので、名誉毀損的発言であることに間違いありません。

■そう簡単なものではない

では、佐村河内氏は裁判を起こして勝てるか?というと、そう簡単なものではありません。

法律的には、その発言にかかる事実が公共の利害に関する事実にかかるもので、専ら公益を図る目的によるものであり、かつ、その事実が真実であるか、真実と信じるに付き相当な理由があれば、その発言は違法なものではないというのが、判例の解釈になっています。

本件ではどうでしょうか?

■公共の利害に関する事実かどうか

彼は全聾の作曲家、現代のベートーベンとして、日本国はおろか、世界中から注目を受けていましたが、全聾である部分が嘘であることになると、障害者に対する激励的な公共的な存在にもなっていましたし、全聾ということを売りにして音楽活動をして消費者の指示を受けていたので、全聾かどうかというのは公共の利害に関する事実と言えましょう。

■専ら公益を図る目的かどうか

専ら公益を図る目的かどうかについては、新垣氏に聞いてみないとわかりませんが、ここに金銭的な問題が発生しない以上(つまり、新垣氏が佐村河内氏に新たに金銭的な請求を主張しない限り)公益目的との新垣氏の主張は比較的受け入れられやすいでしょう。

■真実かどうか

真実かどうかについては、彼は、感音性難聴だと主張し、音は聞こえるが声は聞き取れないと話し、手話通訳士の必要性を説いていましたが、少なくとも障害者手帳をもらうまでの聴覚障害がなかったことは明らかになっており、全聾ではなかったという事実については、真実性が認められるでしょう。

このようなことを考えたとき、佐村河内氏の新垣氏に対して起こされる裁判については、おそらく勝ち目が限りなく薄いのではないかと思います。

小野智彦
小野 智彦 おのともひこ

大本総合法律事務所

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