弁護士は非常に多くの書面を作成し、又は書面を読む職業ですので、書面の文言には非常に気を遣います。
一般生活では特に気に留めないような言葉についても正確に理解することが求められます。今回は細かすぎるけど大事な法律用語の使い分けを紹介したいと思います。
■1:「及び」と「並びに」
双方とも同じものを2つ以上並べる場合に使われる接続詞ですが、いずれも自由に使えるわけではなく、原則的には「及び」を使います。ただ、及びでつなげたものをさらに並べる場合に「並びに」を使います。「A及びB」並びに「C及びD」という関係です。
(例)養子及びその配偶者並びに養子の直系尊属及びその配偶者と・・・(民法729条)→「養子及び配偶者」並びに「養子の直系尊属及びその配偶者」という関係です。
■2:「又は」と「若しくは」
こちらも双方とも、並べられたものからいずれか1つを選ぶ場合に使われる接続詞ですが、原則的には「又は」を使います。
そして、つなげたものをさらにつなげる場合は、小さいペアの方には「若しくは」、大きいペアの方には「又は」を使います。
2つを並べるだけなら「A又はB」、並べたものをつなげる場合は「A若しくはB」又は「C若しくはD」となります。先ほどの「及び」「並びに」とはちょっと関係が異なりますのでご注意下さい。
(例)公務員が(中略)、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は文書若しくは図画を変造したときは・・・(刑法156条)→「虚偽の文書若しくは図画」又は「文書若しくは図画を変造」という関係です。
■3:「その他」と「その他の」
「Aその他B」「A、Bその他C」とは、AとB、AとBとCが並列、対等の関係になる場合です。一方、「Aその他のB」「A、Bその他のC」とは、BがAを、CがAとBを包含する関係にある場合です。
(例)遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は・・・(刑法254条)→「遺失物」「漂流物」「その他占有を離れた物」は並列、対等な関係です。
(例)境界線を損壊し、移動し、若しくは除去し、又はその他の方法により・・・(刑法262条の2)→「損壊、移動、除去」は「その他の方法」に含まれる関係にあります。
■4:「者」「物」「もの」
「者」は自然人、法人など、人格がある場合に使用します。「物」は、有体物に使用します。自然人や法人には使いません。「もの」は人格がない団体や抽象的な事物を指す場合に使われます。
(例)債務者のために弁済をした者は、その弁済と同時に・・・(民法499条)→弁済をした自然人又は法人を指します。
(例)抵当権は(中略)、その目的である不動産に付加して一体となっている物に及ぶ。(民法370条)→付加して一体となっている個体を指します。
(例)政治道徳の法則は、普遍的なものであって、この法則に従ふことは・・・(憲法前文)→普遍的という抽象的な事物を指しています。
■5:「善意」「悪意」
法律を勉強するときに一番最初に覚える法律用語です。
法律上の善意、悪意とは、良い、悪いという意味はありません。物事を知らない場合のことを「善意」、知っている場合を「悪意」と言います。
(例)十年間、所有の意思をもって(中略)他人の物を占有した者は(中略)、善意であり、かつ過失がなかったときは、その所有権を取得する。(民法162条1項)→他人の物であると知らずに(善意)占有した場合は、10年間でその物の所有権を取得できるという規定です。
(例)悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。(民法704条)→その利益が他人のものであると知っていた(悪意)場合は、利息を付けて返還しなければならないという規定です。
以上、法律分野で独特な言い回しを5つ、紹介してみました。中には普段使用している意味合いとほとんど全く異なるものもあり驚く方も多いかと思います。今後法律関連のニュースや書籍に触れる際、ぜひ役立ててみてくださいね。