トム・クルーズ主演の2011年公開「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」は日本でも多くの人が知るハリウッド映画ですが、自分の著作物からの盗作だとする人物が、トムとパラマウント映画を相手取り10億ドルの慰謝料を求めて訴えているそうです。
訴えが認められるかどうかは今後注目されるところです。
日本円にして約1,013億円という巨額な慰謝料、もちろん日米の違いはありますが、他人の著作物を無断で使用するということには大きなリスクが潜んでいるわけです。
今回は、なぜ著作権という概念があるのか、他人の著作物を勝手に使うことがどれほど悪いことなのか、改めて解説してみたいと思います。
著作権は、著作物を独占的に利用して利益を受ける排他的な権利です。要するに、著作権は、自分だけが著作物を利用して利益を受けることができる権利です。
ここでいう著作物とは、「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1号)をいいます。
■著作権法のキホン
著作権法は、「著作物ならびに実演、レコード、放送および有線放送に関し著作者の権利およびこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的」(同法1条)とし、著作者が持っている権利の内容を説明し、権利が侵害された場合の処理や権利を侵害した人の罰則などについて定めています。
著作者は、頭を使い、時にはスランプに陥りながら、自分の個性を発揮して著作物をこの世に産み出しているわけです。著作物が簡単に真似され利益を上げられてしまうと、著作者は報われません。そこで、著作権法は、著作者の権利を保護しているわけです。
■著作者に認められた権利
著作者には、著作者の人格的利益を保護するための権利として、公表権(著作物を公表するかどうか、公表する場合にその時期・方法等を自由に決めることができる権利)、氏名表示権(著作物が公表される際に、著作者の氏名を表示するかどうか、表示するとして名義をどうするかを自由に決めることができる権利)、同一性保持権(著作物の一部分を勝手に変えられない権利)があります。
また、著作者には、財産権としての著作権として、複製権(著作物を複製する権利)、上演権(著作物を上演する権利)、演奏権(著作物を演奏する権利)、上映権(著作物を上映する権利)、公衆送信権(著作物を公衆送信する権利)、口述権(著作物を公に口頭で伝達する権利)、展示権(著作物を展示する権利)、頒布権(著作物の複製を公衆に譲渡したり貸与する権利)、譲渡権、貸与権、翻訳権、編曲権、変形権、脚色権、翻案権、二次的著作物の利用権があります。
■著作者の権利が侵害された場合は
したがって、著作者は、これらの権利が侵害された場合、著作者人格権ないし財産権としての著作権を侵害されたとして、侵害の差し止め等を求めていくことになります。
著作権侵害の典型例としては、著作物である小説や漫画を人に配るためにコピーする場合です。この場合、著作者の複製権を侵害しています。
また、映画DVDの海賊版を作ったり頒布したりすることも、著作者の複製権・頒布権を侵害します。
■アイドルの写真をブログで使うのは?
アイドルの写真についても、「被写体のもつ資質や魅力を最大限に引き出すため、被写体にポーズをとらせ、背景、照明による光の陰影あるいはカメラアングル等に工夫をこらすなどして、単なるカメラの機械的作用に依存することなく、撮影者の個性、創造性が現れている場合には、写真の著作物として著作権法の保護の対象になる」(東京地判昭和62年7月10日判時1248号120頁)とされています。したがって、カメラマンの承諾を得ずにアイドルの写真を勝手にブログで使用する行為は、商用目的であろうがなかろうがカメラマンの公衆送信権を侵害することになります。
ゲームのキャプチャ画面も創作性が認められれば美術の著作物です。これを興味を引くなどのためにソーシャルメディアで使用すれば、著作者の複製権や公衆送信権を侵害することになります。
■著作者が採れる対応とは
著作権の侵害にあたる場合、著作者としては、
・侵害の差し止め請求(著作権法112条)
・損害賠償の請求(民法709条以下)
・不当利得の返還請求(民法703条以下)
・名誉・声望の回復措置の請求(著作権法115条)
・刑事告訴(著作権法119条以下)
といった対応を採ることができます。
このうち、著作者が侵害者に対して損害賠償を請求する場合、損害額の立証は容易ではありません。
そこで、著作権法は、損害を立証しやすくするための規定を置いたり(著作権法114条)、裁判所が相当な損害額を認定することができる旨の規定を置いたり(同法114条の5)して著作者の権利の保護を図っています。
インターネットやブログ・ソーシャルメディア等のコミュニケーションツールの普及によって、一般の方が情報の送り手となる機会が爆発的に増えています。その結果、一般の方が著作権等他人の権利を知らず知らずのうちに侵害している場合も急激に増えています。
他人の権利を侵害した場合、法律を知らなかったでは済みません。公に情報を発信する際には、著作権等他人の権利を侵害していないかどうか十分注意する必要があります。