佐村河内氏の別人作曲と「ゴーストライター」契約

佐村河内氏のいわゆる別人作曲問題が話題になっています。

今回は、実際に作曲していた新垣氏と結ばれたであろう、「ゴーストライター」契約について弁護士の私が解説します。

ゴーストライター

ゴーストライター契約とは、書籍や記事、脚本、音楽、絵画などの代作を依頼し、依頼者の名義で出版することを条件に、その対価を支払うことを約束する契約のことを言います。

法律的に言えば、契約の内容は、著作権の譲渡、その対価の支払い、そして、氏名表示権を行使しないことの約束、この三点で構成されることになります。

昨今、タレント本であるとか、流行歌の作曲であるとか、売れっ子のイラストレーターであるとか、ゴーストライターがいるであろうことは、いわば常識的なことと言われています。

最近では、俳優の長門裕之さんの「洋子へ」がゴーストライターの作品で内容が問題となってその文責の所在が問題となったことがありました。

■このような契約は法的な効力を持つの?

著作印税等について、ゴーストライターの取り分が約束されていたケースにおいて、この契約書が法的な拘束力を持つのかが特に問題とされます。

と言いますのも、ゴーストライターの存在がいわば当たり前のように言われ、「そんなの有効に決まってるじゃん!」という意見が多数を占めそうな気もするのですが、実は著作権法121条には、著作者名称詐称罪という刑事罰が規定されているのです。

つまり、著作者でない者の実名もしくはペンネームを著作者とした場合には、1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金刑又はこれを併科すると規定されているのです。

■今回のケースは著作者名詐称罪?

今回話題になっている佐村河内さんの件は、全聾の被爆2世の奇跡の「現代のベートーベン」が作ったという、その背景をもとに、多くの方がCDを買い求め、コンサートに通ったわけですが、そのような聴衆の期待を裏切ったと言う意味で、まさにこの著作者名詐称罪にあたるわけです。

彼の事例に限らず、多くのゴーストライターの事案は、この例に当たるものと思われます。契約というのは、基本的には双方の合意があれば、ほぼ何でも成立してしまうものですが、合意の内容が犯罪を構成するような場合には、それは「公序良俗」(民法90条)に抵触することになり、契約は無効になります。

人を殺す契約が公序良俗に違反して無効になるのと同じ理屈です。 このように考えますと、先に問題提起をしたように、ゴーストライター契約書に基づいて裁判所に裁判を起こしたとした場合に、果たしてこの契約書に法的拘束力があるのか、と言われると、きわめて疑問と言わざるを得ません。

その意味では、ゴーストライター契約というのは、いわばゴーストな契約。。。と言っても過言ではないかもしれませんね。

小野智彦
小野 智彦 おのともひこ

大本総合法律事務所

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