先日、東京都の男性が横浜市の喫煙禁止地区内で喫煙し過料2,000円の処分を受けた事件につきまして、横浜地方裁判所の判決が出ました。過料は国や地方公共団体のルールを破った人が金銭を支払わなければならない行政罰ですが、罰金のような刑罰ではなく前科にはなりません。
判決の内容は、路面の禁煙標示(喫煙禁止のロゴマーク)が直径約30cmと小さく、歩行者が文字を読みとることはできず認識することも困難で、喫煙禁止地区までの道路に注意を促す掲示物もなく、喫煙禁止を知らなかったことに過失があるとは言えず、過料の処分を取り消すというものでした。
横浜市は、「横浜市空き缶等及び吸い殻等の散乱の防止等に関する条例」(「ポイ捨て・喫煙禁止条例(ハマルール)」)を定め、平成19年9月1日から喫煙禁止地区内の喫煙を禁止し(同条例11条の3)、違反者には「2,000円以下の過料に処する」(同条例30条)としています。
横浜市は、こうした規制の目的について、人通りの多い場所において、吸い殻のポイ捨てや歩行喫煙を規制することによって、街の美観を維持し、あわせて火傷や服の焼け焦げを防止し市民の安全を確保することが目的であると説明しています(横浜市資源循環局喫煙禁止地区の指定についてのQ&A参照)。
条例の規制目的を重視すれば、市の職員が喫煙禁止地区内を巡回して厳しく取り締まっていくべきであり、裁判所も可能な限り行政処分を是認すべきことになります。過料2,000円も適当な制裁かと思われます。
しかし、今回、裁判所は、違反者には喫煙禁止地区内であるとの認識がなく、しかも喫煙禁止標示が小さかったので認識できなかった事について過失もないとして行政処分の取消を認めたわけです。
要するに、裁判所は、たとえ2,000円の過料にすぎないとしても、過失のない人にまで制裁を加えるのはやり過ぎであると判断したわけです。
■もっとも…
この判決によって横浜市の喫煙禁止の条例が無効になったわけではありませんので、喫煙者は今後も注意する必要があります。
この判決の考え方を元にすれば、今後、喫煙禁止標示が少し大きなものになり、しかも標示場所を増やせば結論が変わる可能性があります。喫煙禁止標示が目立ちすぎると却って街の美観を損ねるので、それほど大きなものにならないでしょうし、標示場所も極端に増やさないとは思いますが。
また、今回、処分を受けた人がまた同じ事をしたら、過失がなかったで通用するでしょうか。おそらく、通用しないでしょう。
さらに、こうした裁判沙汰が繰り返されて喫煙禁止地区内での喫煙が社会問題化されれば、喫煙禁止標示が今のままでも処分が是認されるようになるかも知れません。
つまり、社会問題化されて喫煙禁止地区が日本の至る所にあることが常識になり、周囲を見渡したりスマホや携帯で調べたりして、喫煙禁止地区が容易に確認できる状況であれば、喫煙者は喫煙禁止地区かどうか確認すべき義務があるんじゃないか、そうした義務を履行していない以上過失があるんじゃないかという考え方もできるわけです。
そこで、今回の判決にかかわらず、喫煙をする人は喫煙する前に今いる場所が喫煙可能かどうか確認する習慣をつけた方がいいのではと思う今日この頃です。