テレワークでかさむ通信費… 費用やネット環境は会社が用意するもの?

新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言で、採用する企業が増加したテレワーク。

Web会議や、遠隔操作ソフトを利用しての作業など、インターネット回線を利用することが前提となっています。一部には緊急事態宣言解除後もテレワークを認める会社もあるようで、厄介なウイルスが日本の「働き方」を変えたとも言えますね。

 

テレワークで多額の通信費が…

最近はインターネット環境がない家庭は極めて珍しくなりましたが、通信速度や容量などは契約内容に委ねられるためまちまちです。仕事でネットを利用することで、「多額の通信費が発生してしまった」という人もいるのではないでしょうか。

労働者としては「仕事で使ったため多額になった通信費を会社に請求したい」と思うことは、当然のこと。またネット環境がない場合などは、モバイルルーターの貸し出しなど、会社が環境を構築するべきのようにも思えます。テレワークについて、法的な決まりはあるのでしょうか? 詳細を琥珀法律事務所の川浪芳聖弁護士に伺いました。

 

会社に請求することはできる?

川浪弁護士:

「労働者の会社(使用者)に対する、在宅勤務のためのネット環境整備請求、ネットの通信費支払請求について直接定めた法律はありません。そのため、自宅のネット環境整備費用や通信費を労働者と会社のどちらが負担するのかは、労働者と会社の間で締結される労働契約や就業規則の内容によることになります。

もっとも、在宅勤務の際の自宅のネット環境整備費用や通信費用について、労働契約や就業規則で予め定めている会社は相当少ないと思います。

多くの会社は、労働者が出社することを前提に労働契約を締結しているからです。このように、労働契約や就業規則で定められていない場合にどうなるかがまさに本件の問題だと思いますが、①新たに就業規則を作成して取り決める、②既存の就業規則の内容を変更して取り決める場合には、その就業規則の内容に従うことになります。

例えば、就業規則で「会社負担」と取り決められた場合には、労働者は、会社に対して、通信費等を請求することが可能になります。他方で、上記①②を除いた場合には、在宅勤務を決定した際の会社と労働者の(合理的)意思解釈として、又は、労働契約に付随する信義則上の義務として、原則として会社が通信費等を負担すると解すべきと考えます会社が命じたのではなく、労働者が自己の都合によって強く在宅勤務を要望したような場合には、例外的に労働者が通信費等を負担することになると思います)。通信費等は、会社の業務を処理するにあたって必要な費用だからです」

 

予め話し合いを

川浪弁護士:

「なお、上記の点に関して、労働基準法89条1項5号は、「常時10人の労働者を使用する使用者」は「労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項」を定めた就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならないと規定していますが、同条項によれば、就業規則で規定していない限り、常時10人以上の労働者を雇用する会社は、在宅勤務のネット環境整備費用や通信費を労働者に負担させることはできない、すなわち、会社が負担するという解釈につながるものと考えます。

上記のとおり、労働者は、就業規則に「労働者負担」と規定されていない限り、原則として、会社に対して、在宅勤務によって発生した通信費等を請求できると考えられます。もっとも、通信費等については、仕事のためのネット利用と私的なネット利用の各割合を明確に区別して算定することは困難であると思います

そうすると、ひとまず通信費等を支払った労働者が会社に対して、仕事による増額分を請求しようとしても、割合算定が困難である以上、事実上その請求を諦めざるを得ない可能性が高いと思います

したがって、在宅勤務を決定するにあたっては、予め、会社と労働者との間で、通信費用等の支払いについて決定しておくことが紛争予防という観点から重要です。実際、在宅勤務中の通信費等が増大することを見越して、在宅勤務手当を支給する会社もあるようです

このように『予め固定した金額を手当として支給する代わりに通信費等の増額分は労働者自身で支払ってもらう』とすることは会社と労働者の双方にとって明確でわかりやすい取り決め方法であると思います」

 

未知の部分が多い「テレワーク」

テレワークは新型コロナウイルス感染拡大後急激に広まったもので、まだまだ一般化されていなため未知の部分が多く、法律や就業規則が整備されていないのが現状のようです。経営者と労働者がお互いに話し合いを重ねながら、お互いにとってメリットのある「やり方」を模索する必要がありそうですね。

 

*取材協力弁護士: 川浪芳聖(琥珀法律事務所。些細なことでも気兼ねなく相談できる法律事務所、相談しやすい弁護士を目指しています。)

*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)

川浪 芳聖 かわなみよしのり

琥珀法律事務所

東京都渋谷区恵比寿1-22-20 恵比寿幸和ビル8階

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