コロナ禍で発令された緊急事態宣言 法的根拠や制限範囲を弁護士が解説

4月7日、新型コロナウイルス感染者数に歯止めがかからない現状から、安倍晋三総理大臣が東京・神奈川など7都道府県に対し緊急事態宣言を発令しました。

国民に在宅してもらうことで人との接触を減らし、感染拡大を防ぐ狙いから出された緊急事態宣言。しかし内容や法的根拠を元に「どこまで人の行動を制限できるのか」については、理解されていない感があります。

そこでパロス法律事務所の櫻町直樹弁護士に緊急事態宣言について解説していただきます。

 

緊急事態宣言とは?

櫻町弁護士:「「緊急事態宣言」とは、感染症が流行した際、新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下「新型インフル等特措法」とします)に基づき、政府対策本部長(=内閣総理大臣)が行う宣言及び公示のことをいいます。

少し長くなりますが、どのように規定されているかみてみましょう。

【新型インフル等特措法】

第16条 政府対策本部の長は、新型インフルエンザ等対策本部長(以下「政府対策本部長」という。)とし、内閣総理大臣(内閣総理大臣に事故があるときは、そのあらかじめ指名する国務大臣)をもって充てる。

第32条 政府対策本部長は、新型インフルエンザ等(国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあるものとして政令で定める要件に該当するものに限る。以下この章において同じ。)が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件に該当する事態(以下「新型インフルエンザ等緊急事態」という。)が発生したと認めるときは、新型インフルエンザ等緊急事態が発生した旨及び次に掲げる事項の公示(第5項及び第34条第1項において「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」という。)をし、並びにその旨及び当該事項を国会に報告するものとする。

附則第1条の2
1 新型コロナウイルス感染症(病原体がベータコロナウイルス属のコロナウイルス(令和2年1月に、中華人民共和国から世界保健機関に対して、人に伝染する能力を有することが新たに報告されたものに限る。)であるものに限る。第3項において同じ。)については、新型インフルエンザ等対策特別措置法の一部を改正する法律(略)の施行の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日までの間は、第2条第1号に規定する新型インフルエンザ等とみなして、この法律及びこの法律に基づく命令(告示を含む。)の規定を適用する。
2 (略)
3 (略)

【新型インフル等特措法施行令】

第6条
1 法第32条第1項の新型インフルエンザ等についての政令で定める要件は、当該新型インフルエンザ等にかかった場合における肺炎、多臓器不全又は脳症その他厚生労働大臣が定める重篤である症例の発生頻度が、感染症法第6条第6項第1号に掲げるインフルエンザにかかった場合に比して相当程度高いと認められることとする。
2 法第32条第1項の新型インフルエンザ等緊急事態についての政令で定める要件は、次に掲げる場合のいずれかに該当することとする。
一 感染症法第15条第1項又は第2項の規定による質問又は調査の結果、新型インフルエンザ等感染症の患者(当該患者であった者を含む。)、感染症法第6条第10項に規定する疑似症患者若しくは同条第11項に規定する無症状病原体保有者(当該無症状病原体保有者であった者を含む。)、同条第9項に規定する新感染症(全国的かつ急速なまん延のおそれのあるものに限る。)の所見がある者(当該所見があった者を含む。)、新型インフルエンザ等にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者(新型インフルエンザ等にかかっていたと疑うに足りる正当な理由のある者を含む。)又は新型インフルエンザ等により死亡した者(新型インフルエンザ等により死亡したと疑われる者を含む。)が新型インフルエンザ等に感染し、又は感染したおそれがある経路が特定できない場合
二 前号に掲げる場合のほか、感染症法第15条第1項又は第2項の規定による質問又は調査の結果、同号に規定する者が新型インフルエンザ等を公衆にまん延させるおそれがある行動をとっていた場合その他の新型インフルエンザ等の感染が拡大していると疑うに足りる正当な理由のある場合

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)については、「肺炎の発生頻度が季節性インフルエンザにかかった場合に比して相当程度高いと認められること」、かつ、「感染経路が特定できない症例が多数に上り、かつ、急速な増加が確認されており、医療提供体制もひっ迫してきていること」から、新型インフル等特措法施行令6条の要件が満たされているとして、令和2(2020)4月7日、政府対策本部帳である安倍首相が、新型インフルエンザ等緊急事態が発生した旨を宣言し、公示がなされました(官報「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言に関する公示」(https://kanpou.npb.go.jp/20200407/20200407t00044/20200407t000440001f.html))。

 

4月7日の宣言の時点において、対象となる区域は「埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、兵庫県及び福岡県」、期間は「令和2(2020)年5月6日まで」となっています。

そして、緊急事態宣言が発せられた場合には、「新型インフルエンザ等緊急事態措置」、すなわち、「国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済に及ぼす影響が最小となるようにするため、国、地方公共団体並びに指定公共機関及び指定地方公共機関がこの法律の規定により実施する措置」(新型インフル等特措法2条3号)が講じられることになります。

具体的には、緊急事態宣言の対象区域となった都道府県の知事は、

・住民に対し、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間並びに発生の状況を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間及び区域において、生活の維持に必要な場合を除きみだりに当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないことその他の新型インフルエンザ等の感染の防止に必要な協力を要請すること(新型インフル等特措法45条1項)
・学校、社会福祉施設(略)、興行場(略)その他の政令で定める多数の者が利用する施設を管理する者又は当該施設を使用して催物を開催する者(次項において「施設管理者等」という。)に対し、当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請すること(同条2項)
・施設管理者等に対し、当該要請に係る措置を講ずべきことを指示すること(同条3項)

ができます。

なお、施設管理者等への「指示」は、「施設管理者等が正当な理由がないのに前項の規定による要請に応じないとき」であって、「特に必要があると認めるときに限り」行うことができるものであり、指示が可能な場合は限定的となっています。

そして、こうした要請や指示をした場合、都道府県知事はその旨を公表しなければなりません(新型インフル等特措法45条4項)。

緊急事態宣言の対象区域において、具体的にどのような措置が講じられているかをみると、例えば東京都の場合は以下のようになっています

(東京都「新型コロナウイルス感染拡大防止のための東京都における緊急事態措置等」https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/007/661/
2020041000.pdf)」。

・新型インフルエンザ等対策特別措置法第45条第1項に基づき、医療機関への通院、食料の買い出し、職場への出勤など、生活の維持に必要な場合を除き、原則として外出しないこと等を要請

事業者に対し:

・特措法第24条第9項に基づき、施設管理者もしくはイベント主催者に対し、施設の使用停止もしくは催物の開催の停止を要請。これに当てはまらない施設についても、特措法によらない施設の使用停止の協力を依頼
・屋内外を問わず、複数の者が参加し、密集状態等が発生する恐れのあるイベント、パーティ等の開催についても、自粛を要請

休止を要請する施設(新型インフル等特措法施行令第11条):
・遊興施設等(キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホール、バー、個室付浴場業に係る公衆浴場、ヌードスタジオ、のぞき劇場、ストリップ劇場、個室ビデオ店、ネットカフェ、漫画喫茶、カラオケボックス、射的場、勝馬投票券発売所、場外車券売場、ライブハウス 等)
・大学、学習塾等 (大学、専修学校、各種学校などの教育施設、自動車教習所、学習塾 等 ※ 床面積の合計が1,000㎡を超えるものに限る。)
・運動、遊技施設(体育館、水泳場、ボーリング場、スポーツクラブなどの運動施設、 又はマージャン店、パチンコ屋、ゲームセンターなどの遊技場 等)
・劇場等(劇場、観覧場、映画館又は演芸場)
・集会・展示施設(集会場、公会堂、展示場/博物館、美術館又は図書館、ホテル又は旅館(集会の用に供する部分に限る。) ※ 床面積の合計が1,000㎡を超えるものに限る。 )
・商業施設(生活必需物資の小売関係等以外の店舗、生活必需サービス以外のサービス業を営む店舗 ※ 床面積の合計が1,000㎡を超えるものに限る。)

 

※なお、上に挙げた各施設以外についても、東京都知事は「床面積の合計が1,000㎡以下の下記の施設については、同1,000㎡超の施設に対する施設の使用停止及び 催物の開催の停止要請(=休業要請)の趣旨に基づき、適切な対応について協力を依頼」として、施設の使用/催物開催の停止や、感染防止対策を講じた上での営業を求めています。

以上のように、新型インフル等特措法に基づく緊急事態宣言が発せられた場合でも、都道府県知事がなし得るのは「要請」であり、施設管理者等が要請に応じない場合に限り施設の使用停止等を「指示」できるとするのが、新型インフル等特措法の仕組みです。

したがって、欧米の各国においてなされているような、国民(住民)の外出を法的に「禁止」することはできません。あくまで、(生活の維持に必要な場合等を除いて)外出しないことを要請できるにとどまります。また、要請に反して外出した場合でも、罰則はありません」

 

まとめ

海外のように「外出を禁止しなければならなくなる」という声がありますが、日本の法律では現状難しい様子。緊急事態宣言で事態が収束するよう願いたいですね。

 

*取材協力弁護士:櫻町直樹(パロス法律事務所。弁護士として仕事をしていく上でのモットーとしているのは、英国の経済学者アルフレッド・マーシャルが語った、「冷静な思考力(頭脳)を持ち、しかし温かい心を兼ね備えて(cool heads but warm hearts)」です。)

*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています

櫻町 直樹 さくらまちなおき

パロス法律事務所

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