雑居ビルにオフィスが入っている会社では、トイレがビルのフロアに設置されていることが多いようです。そこはあくまでも「ビルのトイレ」であり、会社の敷地内ではないからと、部外者が利用するケースもあります。
企業のなかには情報漏れを防ぐ観点から、「他人に入ってきてほしくない」と考える人も存在し、使おうとした部外者を「建造物侵入などに問えないのか」との声も。
実際のところ、そのような対応は可能なのか。企業法務や不動産について詳しい高島総合法律事務所の高島秀行弁護士にお聞きしました!
建造物侵入罪に問えるのか?
高島弁護士:「雑居ビルの入り口の形態にもよりますが、誰でも入室が可能な状態であれば、建造物侵入の犯罪は成立しないと思います。
ビルの構造上誰でも容易に入れるようなものではなく、そのビルのテナントの全てが不特定の来客の可能性もなく、入り口で明確にテナントの関係者以外立ち入り、利用禁止と目立つところに記載してあるようなビルであれば、建造物侵入罪が成立する可能性があります」
誰でも入ることができる場合は、建造物侵入の犯罪は成立しませんが、「関係者以外利用禁止」と記載してあれば、部外者が立ち入った場合、建造物侵入罪に問う余地があるようです。
複数社で共有している場合は?
ビルに入っている会社の場合、トイレを複数の会社で共有しているケースがあります。このような場合、部外者を特定することは難しいと思われますが、やはり関係ない人間に利用してほしくないと思うものでしょう。
このような場合、部外者の利用禁止や利用者に建造物侵入罪を問うことは可能なのでしょうか?
高島弁護士:「建物の利用が許されている、テナント(賃借人)の従業員あるいは顧客等であれば、別の階のトイレがその建物の共有部分である限り、建物侵入の罪は成立しないと思います」
やはり複数社で共有している場合は難しいのですね。
企業としての対策は?
企業が雑居ビルに「部外者を入れたくない」と考えている場合、どのような対策が考えられるのでしょうか?
高島弁護士:「通常の雑居ビルのトイレは共用部分であって、専有部分ではないので、借主でしかない一テナントが利用を禁止するのは難しいです。ビルの構造上1フロア1テナントで、トイレも含めて専有部分とする賃貸借契約が結ばれたような場合には例外的に他社の利用を禁止できる可能性があります」
すぐにできる対策は?
情報漏れ防止はもちろんですが、部外者がトイレを利用することで、そのテナントの従業員が快適にトイレを使えないなど、問題と考える企業も存在するでしょう。
「部外者にトイレを利用されたくない」場合、すぐにできる対策としては、わかりやすい場所に「関係者以外立ち入り禁止」の掲示をすること。
自社ビルなどではない限り、完全な防止策とは言えませんが、「立ち入り禁止」などと明確に掲示することで、部外者の侵入を少なからず防げるかもしれませんね。
*取材対応弁護士:高島秀行(高島総合法律事務所。ビジネス弁護士2011にも掲載された企業法務について詳しいベテラン弁護士。著作に「企業のための民暴撃退マニュアル」「訴えられたらどうする!!」等多数
*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)