現在テレビなどで、あるネットの書き込みが話題になっています。それは天ぷら屋で合コンをしていたグループの女性陣が、ダイエット中だからと天ぷらの衣をはがして食べ、店主から「退店」を命じられたというもの。
店主は代金を請求しておらず、「我々にする侮辱。出ていってほしい」と伝えたのだそうです。
書き込みによると、女性陣は「お金を払って来ているのに」などと、納得のいかない反応だったとのこと。
ネットの反応は女性たちに厳しく、「店主の行動は当然」という声が多数でした。
退店命令は法的に許されるのか?
確かに女性たちの行動は天ぷらに思い入れを持つ料理人にとっては屈辱的なものだということは理解できますが、お金を払っている以上、「食べ方」は客に委ねられてもいいようにも思えます。
このように飲食店で店主が客の行動を不服として「出て行け」と命令することは多々ありますが、法的に許されているのか気になります。そして女性たちが不当性を訴え、慰謝料などを請求することはできるのでしょうか?
琥珀法律事務所の川浪芳聖弁護士に見解を伺いました。
こだわりは理解できるが、説明や告知は必要
川浪弁護士:「今回のようなケースでは、何らかの刑事法規に触れるわけではなく、民事上の問題となります。飲食店と客との間では「店が飲食のサービスを提供し、これに対して客がお金を払う」という契約が成立します。今回のケースは、この契約解釈の問題となります。
この点に関して、上記契約に「客は店の指示する食べ方に従わなければならない。」ということが社会通念上含まれているとはいえませんので、店が飲食サービスの提供を拒否して退店を命じることは債務不履行(契約不履行)に該当すると思われます。
店主のこだわりについては理解し得るところですが、そのようなこだわりがあるならば、飲食サービス提供前に上記食べ方について説明しておく、貼り紙等で客に告知しておく等しておかなければなりません。
このように説明・告知しておけば、「客は店の指示する食べ方に従わなければならない。」ということが契約内容に含まれますので、店は客に退店を命じることが可能となります。
余談ですが、飲食サービス提供契約には「他の客に迷惑をかけてはならない。」ということが社会通念上含まれていると解されますので、他の客に迷惑をかけるような行為をした客に対しては、契約違反として退店を命じることができます。」
客からの慰謝料請求も認められない
川浪弁護士:「以上を踏まえて、今回のケースでは客は債務不履行を主張することが可能ですが、店は「代金はいりません。」と言っており、客に経済的損失は発生していません。
また、合コンで利用していて不快な気分になったとしても慰謝料が発生するほどとは思えず、慰謝料請求も認められない(仮に認められたとしても低額にとどまる)と思われます。
したがって、客が店に対して債務不履行に基づく損害賠償請求をしても、認められ難いと考えます。
法的な側面に限って言えば上記の通りとなりますが、一般的に店側は客を満足させるべく、料理人としてのこだわりをもって飲食を提供していますので、客側にはそのこだわりに配慮した対応をとることが望ましいと思いますね。」
法律上は店側にも対応の余地はあるものの、客が「天ぷら屋」を合コンの場に選んでおきながら、衣をはがすというマナー違反を犯したとなると、これはやはり、退店を命じられても致し方ないのではないでしょうか?
*取材協力弁護士: 川浪芳聖(琥珀法律事務所。些細なことでも気兼ねなく相談できる法律事務所、相談しやすい弁護士を目指しています。)
*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)